2007.4.25
平成18年度診療報酬改定結果検証に係る特別調査「ニコチン依存症
管理料算定保険医療機関における禁煙成功率実態調査」に対するコメント
日本禁煙医師歯科医師連盟会長 大島 明
2007年4月18日に開催された中央社会保険医療協議会診療報酬改定結果検証部会(第12回)において「平成18年度診療報酬改定結果検証に係る特別調査ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率実態調査」についての検討が行われ、その資料が公開された。(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/04/dl/s0418-3d.pdf)
この資料に基づき、ニコチン依存症管理料の質的量的評価をおこなうとともに、比較参照のためにニコチンパッチの臨床試験での成績と、1999年度から実施されている英国のNHS Stop Smoking Servicesの成績を参考資料として示すこととする。
1.「平成18年度診療報酬改定結果検証に係る特別調査ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率実態調査」に基づくニコチン依存症管理料の質的量的評価
ニコチン依存症管理料を適用しての2006年度 1年間の禁煙治療の総件数と禁煙に成功したものの実数は、全算定医療機関からの今年7月の報告まで待つ必要がある。しかし、2006年12月から2007年1月にかけて2006年7月1日現在ニコチン依存症管理料を算定している施設から無作為に抽出した1000施設を対象として実施された施設調査からも推定することができる。この調査には対象の1000施設のうち501施設が回答し、1施設あたりの1ヶ月の初診の患者数(2006年11月)は2.92人であった。これを2007年1月末現在の4251施設に当てはめると、1年間に約149,000人と推定される。これは日本の喫煙者総数約3000万人の0.5%に相当する。患者に対する1回あたりの指導時間は、初回の指導では30〜40分が33.3%、20〜30分が27.1%、10〜20分が23.6%で、平均指導時間は24.86分であった。2回目以降の指導時間は、10〜20分が64.5%、0〜10分が17.6%で、平均指導時間は12.59分であった。
次に、上記の施設調査に回答した501施設を対象として2006年6月および7月の2ケ月間に医療機関でニコチン依存症管理料の算定を開始した患者全員を対象として、医療機関が対象患者に2006年12月から2007年1月にかけて電話調査を依頼し、治療終了後3ヶ月の禁煙状況を追跡調査した患者1次調査(施設調査に回答した501施設のうち該当患者なしの45施設を除く456施設が回答)の結果を見ることとする。456施設で2006年6,7月の2ヶ月間に禁煙治療を受けた4189人(男性3103人、女性1083人、性別不詳3人)の成績をみると、ニコチン依存症管理料の規定通り5回の治療を受けたものは1190人(総数4189人の28.4%)で、このうち指導終了時4週間禁煙していたものは73.8%、4週間禁煙ではないが1週間禁煙していたものが7.1%であった。一方、途中で中止したものは2999人(総数4189人の71.6%)であったが、1回目で中止した784人のうち中止時禁煙していたものは21.9%、2回目で中止した703人のうち中止時禁煙していたものは45.9%、3回目で中止していた801人のうち中止時禁煙していたものは54.3%、4回目で中止した711人のうち中止時禁煙していたものは58.4%であった。
指導終了3ヶ月後の状況を電話で調査した結果によると、総数4189人のうち、5回目の指導終了時から3ヶ月後調査までの期間または指導中断時から3ヶ月後調査までの期間1本も吸わずに禁煙を継続していたもの(禁煙継続者)は31.7%、このほかに3ヶ月後の調査時点で禁煙しており少なくとも1週間1本も吸わずに禁煙していたもの(1週間禁煙者)が3.6%に認められた。ニコチン依存症治療の状況別に禁煙継続者と1週間禁煙者の割合をみると、5回の指導終了者では58.9%と4.1%、1回目中止者では14.5%と3.8%、2回目中止者では28.4%と3.4%、3回目中止者では36.1%と3.6%、4回目中止者では48.8%と3.4%であった。
次に、患者1次調査に協力した456施設に対して同じ調査対象の治療終了後6ヵ月後の状況を2007年3月に調査を依頼した患者2次調査では、242施設(1次調査に回答した456施設の53.1%)から2225人の患者(1次調査の対象4189人の53.1%)に関する追跡結果を得ることができた。この2次調査によると、総数2225人のうち、5回目の指導終了時から6ヶ月後調査までの期間または指導中断時から6ヶ月後調査までの期間1本も吸わずに禁煙を継続していたもの(禁煙継続者)は32.7%、このほかに6ヶ月後の調査時点で禁煙しており少なくとも1週間1本も吸わずに禁煙していたもの(1週間禁煙者)が2.9%に認められた。なお、この対象における3ヵ月後の状況は、禁煙継続者が34.8%、1週間禁煙者が2.7%であった。3ヶ月後の禁煙継続率と6ヵ月後の禁煙継続率とを比較すると、34.8%から32.7%へと減少は小さくとどまっていた。また、2次調査の2225人を対象とした3ヵ月後の禁煙継続率と1週間禁煙率は4189人を対象とした1次調査(各々31.7%、3.6%)に比べて少し高いものの大きな差はなかった。2次調査の対象には偏りがあることを考慮しなければならないが、その禁煙指導の成功率の範囲では偏りはそれほど大きくないと考えてよい。
上記の、ニコチン依存症管理料により禁煙治療を受けたものの約30%強が指導終了あるいは中止3ヵ月後、そして6ヵ月後も禁煙継続していることを示したデータは、下記の参考資料の禁煙率のデータと比較して、今回のニコチン依存症管理料の制度が十分機能していることを示すものであり、質を担保しつつさらに量的に拡大して行くことにより、ニコチン依存症管理料創設の際に期待した成果をあげることができるものと考える。なお、2007年4月に新設されたニコチン依存症管理料は、6月のニコチンパッチの薬価収載を受けて、ほとんどがニコチンパッチの処方を行っていると考えられるので、日本におけるニコチンパッチの臨床試験の成績を参考資料@に示した。また、英国の禁煙治療の制度は1999年度から開始されているものであるが、指導期間が4週間(指導回数は毎週、計4回)と日本のニコチン依存症管理料の12週間に比べて短いことを考慮に入れる必要がある。
2.参考資料@ 日本におけるニコチンパッチの臨床試験での成績
1)五島ら.喫煙関連疾患を有する喫煙者での禁煙補助薬Ba37142(Nicotine TTS)の臨床効果―多施設協同第3相二重盲検比較試験―.臨床医薬10(8):1801-1830, 1994
・試験開始から貼付終了時(8週間あるいは中止時)まで禁煙できたもの(完全禁煙)と
貼付終了時までには禁煙できたもの(禁煙):
実薬群で274人中各々112人(40.9%)と34人(12.4%)、合計53.3%
プラシボ群で256人中各々75人(29.3%)と18人(7.0%)、合計36.3%
・試験開始後6ヵ月(24週)の1ヵ月間禁煙継続率:
実薬群で30.7%、プラセボ群で26.2%
2)五島ら.ニコチン依存喫煙者でのBa37142(Nicotine TTS)の臨床効果―多施設協同第3相二重盲検比較試験―.臨床医薬10(9):2023-2059, 1994
・試験開始から貼付終了時(8週間あるいは中止時)まで禁煙できたもの(完全禁煙)と
貼付終了時までには禁煙できたもの(禁煙):
実薬群で231人中各々73人(31.6%)と24人(10.4%)、合計42.0%
プラシボ群で236人中各々63人(26.7%)と26人(11.0%)、合計37.7%
・試験開始後6ヵ月(24週)の1ヵ月間禁煙継続率:
実薬群で27.1%、プラセボ群で26.8%
3.参考資料A NHS Stop Smoking Servicesの成績
l この禁煙治療サービスは、1999年4月から、まずはHealth Action Zone(HAZ)と言われる社会的貧困層や医療提供が十分ではない地域において開始された。さらに2000年4月からイギリスの残りの地域とウェールズにおいても実施されるようになった。
l この禁煙治療サービスに対するモニタリングはイギリス政府主体で行われており、イギリスの保健省DOHが、年に4回の報告書の提出を実施機関に義務付けPCTが取りまとめを行う。報告書を通して、禁煙開始日を設定した人数や4週間目のフォローアップ時に禁煙していた者の人数のほか、利用者の年齢層、性別、社会経済的状況、民族などの情報を収集している。
l 2005年度には、602,800人の喫煙者(総喫煙者の6.3%と推定)がStop Smoking Servicesを通して禁煙開始日を設定し、このうち329,700人(約55%)が4週間の完全禁煙に成功した(Statistics on NHS Stop Smoking Services in England)。
l イングランドの2地域(NottinghamとNorth Cumbria)において2002年5月から11月に禁煙開始日を設定した2069人の追跡調査によると、1年間(52週間)の禁煙継続率は14.6%(呼気COで確認)、17.7%(自己申告)であった(Ferguson J et al. Addiction; 2005, 100(Suppl. 2):59-69) 。
l 英国(イングランド)における禁煙治療サービスの成果
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年度 |
禁煙開始日を 設定したもの |
4週間の禁煙成功者数(%) |
薬物療法を受けた割合(%) NRT |
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1999 |
14,600 |
5,800 (39%) |
39 − − |
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2000 |
132,500 |
64,600 (49%) |
36 − − |
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2001 |
227,300 |
119,800 (53%) |
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2002 |
234,900 |
124,100 (53%) |
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2003 |
361,200 |
204,900 (57%) |
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2004 |
529,520 |
298,100 (56%) |
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2005 |
602,820 |
329,681 (55%) |
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l 2005年度の1人の禁煙成功者あたりの費用は、158ポンドであった(2001年度は、206ポンド)。
4.ニコチン依存症管理料の今後について
l 今回の実態調査により、ニコチン依存症管理料の制度が十分機能していることが判明したので、今後、質を担保しつつさらに量的に拡大して行くべきである。
l 質の担保のために、研究班では「禁煙治療のための診療ガイドライン」等を作成しつつあるが、一方で、研修の仕組みを整備する必要がある。
l 量の拡大に関しては、次のようなことが考えられる。
@ 地域・職域で広くおこなわれている健診の場における禁煙支援を積極的に導入し、ニコチン依存症管理料を用いた禁煙治療との有機的な連携を図ること、
A ニコチン依存症管理料の施設基準の中の「禁煙治療の経験を有する医師が1名以上勤務していること」に関しては、研修の機会を整備したうえで研修を受けていることで可とすること、「禁煙治療にかかる看護職員を1名以上配置していること」に関しては今回の調査結果の禁煙治療に携わる看護師数別の禁煙成功率を吟味したうえで検討すること。なお、他の施設基準に関しては、変更する必要はない。
B 入院患者へのニコチンパッチの使用を可能とすること。
5.今回の実態調査の結果を受けて、ニコチン依存症管理料算定医療機関に1年後に提出を求める報告様式に関しては変更するのが適切と考える。すなわち、5回の禁煙指導を終了したものの数とそのうち禁煙に成功したものの数だけでなく、4回までの途中で中止したものに関してもその数と中止時に禁煙していたもの(呼気CO検査で確認)の数の報告を各回別に求めるべきである。
[ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査御協力のお願い]