タバコ禍の実態をつかみ制圧するための
ガイドライン

世界保健機関

ジュネーブ

1998年

謝 辞

このガイドラインは前WHOタバコか健康か計画マネージャーJ.R.Menchaca博士の統括のもとで作成されました。薬物依存対策プログラム担当Neil Collishaw氏は第1部のシニアエディター、Alan Lopez博士は第2部のシニアエディターをつとめました。同プログラム担当のBarbara Zolty女史からは本ガイドライン作成全般にわたり多大な支援を頂きました。
このガイドラインを作るにあたってWHOに寄せられた多くの方々の協力を感謝いたします。とりわけ、ガイドラインの初期草案をレビュー頂きました次の方々に深謝いたします:Gary Giovino博士(米国)、Prakash Gupta博士(インド)、Judith Mackay教授(議長)(香港)、Pekka Puska教授(フィンランド)、Lars Ramstroem博士(スウェーデン)、Annie Sasco博士(国際ガン研究エージェンシー)、Vera Luisa da Costa e Silva博士(ブラジル)、Krisela Steyn博士(南アフリカ)、David Sweanor氏(書記)(カナダ)。また、Thomas Novotny博士(米国)、Derek Yach博士(南アフリカ)、Howard Barnum氏(世界銀行)にもガイドライン草案に幅広いコメントを頂きました。
タバコ使用防止に関連したさまざまプログラムと部門およびWHOの各地域事務所からも多くのコメントと提案を頂いたことを感謝します。
WHOは本ガイドライン出版にあたり多くの経済的援助を賜りましたAusAID(Australian Agency for International Developement)と、世界各地に本書を頒布する上でご協力頂きました米国疾病予防センター(CDC)とWHO協力センターにも感謝いたします。

は じ め に

タバコは、9秒間に1人、1年に世界中で350万人の人命を奪っています。この数字はどんどん増えており、現在の傾向が変わらないとすれば、2020〜30年代には、タバコは毎年1000万人の人命を奪い、その70%を発展途上国が占めるようになると予想されます。1950年代の初頭から多くの科学的証明が行われた結果、タバコによっておきることが確実あるいは強く疑われる病気の数は25をこえました。喫煙のもたらす損失は悲劇的な健康被害だけでなく、経済的社会的にも甚大です。
国際社会の憂慮と関心が反映された結果、世界保健会議 (World Health Assembly)は、包括的タバコ規制計画の推進をはじめとしたタバコ規制に関する数多くの決議を採択してきました。これらの対策はタバコの厄災がすでに広まった国だけでなく、現在のところタバコが広まっていない国についても緊急に実施する必要があります。本書では、こうした数多くの世界会議決議も紹介し、その実行の手引きを示しました。
タバコとその健康影響に関する世界保健会議決議は多くの国の共同作業で作り上げられましたが、包括的で広い分野の共同行動を組織する知識と経験が不十分であればその実践はうまくゆきません。タバコ規制の政策とプログラムを作りあげたいあるいはそうする責任のある方のために、本書には長期的で多分野にまたがる包括的タバコ規制方針とプログラムを作り実行するための実用的な手引きがあらわされています。多くの国々の経験がまとめられ、その教訓が各国のタバコ規制政策を作り改善する上で役にたつよう、テーマ別にまとめられています。
このガイドラインを厳格に実行すればタバコ規制が必ず成功するというものではありません。それぞれの国はこのガイドラインのしめす一般原理、提案、実例をよくつかみ、自分の国特有の必要性に合わせて変える必要があります。包括的タバコ規制を実現するためにどのような戦略を立てるかは最終的にそれぞれの国が責任を持って決めるべきことです。
本書は2部に分かれています(第1部:タバコ規制のための活動。第2部:タバコ災害の実態監視)。

タバコ規制のための活動

第1章はタバコ厄災の諸相とそれによってもたらされる被害を手短に述べています。第2章は、多くの分野との共同を基礎とすることに重点をおきつつ、包括的タバコ規制のための行動計画を準備する方法を述べています。公衆の健康増進のためのタバコ税増税政策について詳しく述べています。タバコ税増税には大きな抵抗が予想されるため、増税反対論にたいする反論を示しました。第2章では、包括的タバコ規制政策の実行過程で出会う問題の処理と成功度の評価に関する提案も示しています。
第3章ではこの分野で成功をおさめた国々の経験に基づいて、包括的タバコ対策を作成して実施の勧めを述べています。また有効なタバコ規制対策への反対論に対する反駁も行っています。
包括的タバコ規制政策を整える上で、それぞれの国がおかれているタバコ問題の現況、つまり現在までの対策の成果と解決すべき課題がなにかをつかむことが大事です。第4章では、タバコ対策成功のかなめ(あるいは支援)の役割を果たす団体と組織について論じています。包括的タバコ規制に必要な情報サポートに関しては第5章で検討されます。役に立つ情報が手にはいった場合、それらを簡単に取り寄せて利用できるシステムを作ることは有意義なことです。第5章には、「タバコか健康か」問題に関する国別の総合的プロフィールも示されています。これらのプロフィールは包括的タバコ規制対策の推進とその効果の検証を行う上で欠かすことのできない情報によるサポートとなるでしょう。

タバコ災害の実態監視

第6章から9章では、タバコの健康影響データを収集し分析する疫学的サーベイランスについて述べています。このデータは、4、5章で示された情報とともに、各国がタバコ災害の現況のモニターと記録を行う上で参考になるでしょう。この情報は、タバコ規制政策とプログラムを強化する助けになります。
ある特定の集団でのこの厄災の激化の度合い(ステージ)を正しくつかむことがタバコ規制活動を支援する上できわめて有用です。第6章では、調査の原則と、調査項目および特定の集団のタバコ使用状態を調べる意味について論じています。この章では、主要なデータ収集方法と解析方法を概説し、タバコ消費と疾病の関連をモニターする上で役に立つ指標と情報源の評価について述べています。これらの原則は先進国にも途上国にも適用可能です。
第7章では、生産、販売、貿易データに基づいたタバコ消費量の観測法についての情報を論じています。各種のタバコ消費量測定法の長所と短所も論じられます。例えば、ひとりあたりのタバコ消費量は総タバコ消費を良く反映しますが、特定の集団の喫煙状態はこの指標ではわかりません。
第8章は、それらの情報を得るためにはどのような調査法が必要なのか、そしてタバコ規制に役立つタバコ消費データをそれらの調査からどのようにして引き出すかについて述べています。タバコ使用量の調査に関する改訂された最新のWHO勧告が述べられてます。そこではタバコ使用率調査の世界基準化を進めるために、すべての国に対して、タバコ使用率調査をこのガイドラインにしっかり従って行うべきであると述べられています。タバコ問題に関する知識と世論に関する調査結果は、各々の国の文化的背景に大きく左右されるため、調査法の国際的標準化にはなじみにくいものです。しかし、政策決定に役立つタバコの健康影響の知識とタバコ規制政策の選択的実行に関する意見をうまく引き出す調査テクニックも解説しています。
タバコ使用による健康被害の信頼できるデータがタイムリーに示されたなら、タバコ規制政策の前進を大いにサポートすることができます。第9章では、タバコによる死亡と障害のデータ源の概説と現在および将来のタバコによる死亡者数の推定値算出法が解説されています。

いま行動する必要がある

タバコが多くの国で最も重要な予防可能な早死にの原因であり、成人前からタバコを吸いはじめた喫煙者の半数がタバコにより死亡することはすでに明らかになっています。公衆保健分野での禁煙を呼びかける精力的な活動にもかかわらず、うれうべき速度でタバコ消費が増えていることは、ニコチンの強力な依存性と全世界を股にかけたタバコ製品を売り込むタバコ産業の活動の比類なき猛烈さを証明するものです。同時に、タバコによる死亡がピークに達するのは喫煙をはじめてから30〜40年後であるために、タバコの健康被害は引き続きおおきく過小評価されています。これは、公衆の健康を守り増進する責任を持つ行政当局も例外ではありません。地球規模で効果的なタバコ災害防止行動を進めることが緊急の課題となっています。本書は、そのような行動の実践的なガイドラインを提供します。この活動が世界中に広まり効果を発揮するのが早ければ早いほど、このタバコ災害の終息も早まるに違いありません。


第1部 タバコ規制のための活動



第1章 タバコ規制の必要性



1950年代のはじめ、広く読まれよく知られている複数の科学的報告書が、喫煙が肺ガンの主な原因であるという結論を発表しました。それ以来多くの科学的証拠が積み上げられた結果、命を脅かす25以上の病気が喫煙によって起こる、あるいは起こる可能性が強いと判明しました。いかなる形のタバコ使用も、多くの慢性疾患をおこし早死にの危険を大きく高めることが証明されました。
タバコを吸わない者でさえ、タバコに健康を冒されます。受動喫煙によって非喫煙者は肺ガンをはじめとする多くの病気にかかる危険が大きく増します。このようにタバコは、多くの病気の主要な原因となっており、多くの国々で予防可能な最大の早死にの原因となっています。
毎年タバコは世界で300万人以上の人の命を奪い、この数字はどんどん増えています。現在の喫煙パターンが変わらなければ、2020〜30年には毎年1000万人がタバコにより殺され、その犠牲者の70%は発展途上国の住民となることがWHOの推定で明らかにされています。2020年までの確実なタバコ病死者とタバコとの関連が強く疑われる幾百万の死者の大部分はすでに喫煙している者の中から発生します。いま真に効果のある予防対策をとらなければ、完全になくそうと思えばなくせたはずの数千万人のタバコ病による早死にの犠牲者が出ることは必至なのです。
タバコのもたらす損失は悲しむべき健康被害だけではありません。タバコは多くの家族と社会に甚大な経済被害をもたらします。1995年に、多くの国際組織と個人が、イタリアのベラジオにあるロックフェラー財団研究カンファランスセンターで行われたカナダ国際開発リサーチセンター主催の会議に集まりました。そこでつぎの結論がまとめられました:
「タバコ消費は持続可能で公正な発展を妨げる大きな脅威である。…発展途上国では、タバコは健康だけでなく、社会的経済的発展そして環境の持続的保全をも妨げる大きな障害物となっている。」(タバコと持続可能な発展に関するベラジオ声明.Tobacco Alert,1995年10月)
世界銀行は1994年にタバコ使用は毎年世界に2000億ドルの経済損失を与えており、その半分は発展途上国で生じているとの推計値を発表しました。これらの損失には、タバコ関連疾患の直接医療費、欠勤・火災・労働能率低下・早死にによる所得損失などが含まれています。これ以外に実際に生じているが金に換算できない膨大な損失があります。それらには病気によって低下した能動喫煙者と受動喫煙者の生活の質、愛する者の病気や死亡によってこうむった精神的・肉体的・経済的打撃などがあります。国別にもでもタバコの被害を計算することができます。たとえば米国連邦議会テクノロジーアセスメント局の1993年度報告書によれば、1990年の米国のタバコによる損害はタバコ1箱あたり2.60ドルでした(1990年の米国のタバコ1箱の価格は1.44ドル)。

タバコ消費パターンと死亡の関係

喫煙の有害性が広く知られているにもかかわらず、世界的にみるとタバコ規制はほとんど成功していません。世界の工場で生産された紙巻きタバコ量は1967年の2兆8千億本から1992年の5兆7千億本と2倍以上に増えました。ひとりあたりの紙巻きタバコ消費量もこの期間に25%増えました。
先進国では、喫煙が1940〜50年代に広まったため、現在それによるタバコ病が激発しています。1990年代の先進国では死亡のおよそ20%はタバコが原因です。35才から69才の年令層では、男性死亡の35%と女性死亡の15%はタバコによります。先進国では成人の喫煙率が下がりつつありますが、発展途上国では増えています。

世界保健会議の諸決議

全世界の公衆保健分野の諸機関はタバコ関連疾患の広がりを憂慮し、WHOの運営機関である世界保健会議(World Health Assembly)は、1970年から1995年まで、に国際的および国別のタバコ規制対策に関する決議を14本採択してきました(付録1参照)。1986年から1995年までにこの会議は「タバコか健康か」問題でおもに9項目にわたる決議を採択し、会議がタバコ規制に断固とし取り組み続ける決意を示しました。
世界保健会議決議WHA39.14(1986年)は、WHOの加盟国に包括的タバコ規制戦略の策定を呼びかけた点で画期的な決議でした。この包括的戦略には最低以下の点を盛り込むことが要請されています。

  1. 公共施設、レストラン、交通機関、職場、娯楽施設の室内において非喫煙者の権利でもある非喫煙者を受動喫煙から確実に守る方策
  2. こどもと若者がタバコ依存に陥らないうちに喫煙習慣を断ち切る対策
  3. あらゆる医療保健施設の医療従事者が禁煙の良い手本を示す
  4. タバコ使用を奨励する社会経済的行動学的誘導因子を積極的に取り除く方策
  5. タバコには依存性があることも含めたよく目立つ有害警告表示を紙巻きタバコの箱などすべてのタバコ製品に表示させること
  6. 医療専門家が積極的に参加協力して、禁煙法をはじめとしたタバコと健康に関する教育プログラムを学校教育と社会教育のために作り上げること
  7. 喫煙率、タバコ関連疾患頻度、全国的喫煙規制活動の成果などのモニター
  8. タバコの製造販売・貿易・税金に代わる現実的で有効な代替え経済活動の推進
  9. これらすべての活動を支持・激励・調整する全国センターを作る

第1項と第4項は1990年に採択されたWHA43.16決議でもう一度取り上げられ、すべての加盟国に以下の活動を呼びかけました。

  1. 最低限WHA43.16決議の9項目の活動を含んだ多分野にまたがる包括的タバコ対策戦略を立案し実行すること
  2. 各国のタバコ規制戦略として実行することも含め、以下に示す課題を達成する計画を法制化を含む実効のある手段で行政機関の適切なレベルの責任で作ること:
    1. 職場内、公共施設内、公共交通内での受動喫煙を効果的に防止する対策。とくに妊娠女性とこどもなどの受動喫煙被害を受けやすい人々を守ること。
    2. タバコ使用を減らすための財政対策を漸次強化すること。
    3. いかなるタバコの直接および間接宣伝・販売促進活動・タバコ産業のスポンサー行為も将来全面的に禁止するための法的措置と共同活動を漸次強化すること。

タバコとその健康被害に関するこれらの世界保健会議決議は、ヘルスプロモーションに関するオタワ憲章(Health Promotion.1986,1:iii-v)と完全に一致しています。オタワ憲章は、幅広い分野の共同を通じて健康増進を達成するために、健康のための社会政策とそれを支援する環境作りを求めています。国際対ガン連合(UICC)、国際結核・肺疾患対策連合(IUATL)、第9回タバコか健康か世界会議をはじめとした主な非政府組織(NGO)はWHOと同じ立場をとっています。さらに世界保健会議はWHOに対して世界各国の包括的タバコ対策方針作りを援助し、タバコ関連疾患の世界的動向を詳細にモニターするよう要請しています。

タバコ使用の社会的受容度


効果的なタバコ規制対策は、まずタバコが強力な依存性を持つことをしっかり認識することから始まります。ニコチンがヘロインやコカイン、マリファナよりも強い依存性を持つと多くの研究者が指摘しています。喫煙者が心から禁煙したいと望んでもその努力はしばしば無駄に終わります。いくらタバコの広告や売り込み活動のあふれる中でがんばっても失敗するのは無理もありません。タバコ規制戦略では、友人の圧力、タバコの価格、タバコの社会的受容度などの外的因子とともに自尊心や自己イメージといった個人の内面を考慮した働きかけも行う必要があります。女性の喫煙を否とする文化や宗教が一部にある以外、喫煙をタブーとする社会規範はありません。したがって、タバコ使用は合法的で、タバコに反対する動きが広まっていないために、ほとんどの国でタバコ製品の製造、売り込み、宣伝は許されているのです。
タバコ製品を卸売店と小売り店(薬局や病院でタバコの販売されている国もある)を通じて販売し、貿易し、新たな市場開拓を行うことも許されています。この結果、収入の一部あるいはすべてをタバコに頼る政治的経済的利権集団が生まれます。例えば、農務省、広告会社、零細小売業者、劇場、スポーツ団体などタバコ業界から収益やスポンサー料をもらう広範囲の利害関係が成立し、彼らがタバコの取引と消費を応援し支えています。これらの密接に結びついた利害関係がタバコに対する社会的受容度を増す役割をはたしているのです。
タバコ使用の社会的受容度が高いと、いくら健康教育や健康増進キャンペーンで禁煙を呼びかけても効果が上がりません。心理学者によれば、認識能力が発達途上にある10代のこども達は、(禁煙を呼びかける)健康教育や健康増進キャンペーンとタバコの宣伝や販売が社会的にまかり通っている矛盾に翻弄され、なにごとも信じるなという考え方を植え付けられているのです。特にいますぐやりたいこと、例えば喫煙を行うことを合理化するためにこの矛盾を持ち出すようになります。

効果的なタバコ規制対策の重要性


多くの国でタバコの危険性を国民に知らせるための健康教育プログラムやキャンペーンが実行されてきました。しかし、これらの努力は常にタバコ産業によって台無しにされてきました。40年以上にわたる健康教育とキャンペーンの経験から言えることは、この取り組みだけではタバコ問題を解決することは不充分だということです。喫煙が社会的常識に合う行為だという観念が続いているかぎりは、いくらタバコの健康被害の教育キャンペーンを行っても、多くの大人を禁煙させたり、こども達がタバコに手を出すのを充分防ぐことはできません。このままでは、タバコの害の知識だけは豊富だがタバコを止めない(止められない)喫煙者が増えるだけです。この状況を改善するには、教育やキャンペーンだけでなく、とりわけ法的対策やタバコ税増税などの取り組みを同時進行させることが、タバコ使用の社会的受容度を減らす上で欠かすことができません。
これまでに、タバコ広告を禁止し、タバコの箱に強力な有害警告文を表示させ、室内の喫煙を規制し、タバコ税を増税し、それに従来通りの禁煙教育や禁煙キャンペーンを組み込んだ包括的タバコ規制対策プログラムを実行した国々では望ましい成果が得られています。1970〜95年の間に、包括的タバコ対策は、オーストラリア、フィンランド、フランス、アイスランド、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、シンガポール、スウェーデンおよびタイで実行されました。これらの国々のタバコ消費量は低いまま維持されたか急減したところから、強力な包括的対策を行うほど、効果も大きいことがわかりました。部分的なタバコ規制対策がおこなわれた国々では、効果も部分的でタバコ問題の重大性に見合う成果が得られなかったのです。
すでにタバコ関連死が蔓延している国でも、まだタバコ使用が広まっていないが将来タバコが重大な公衆衛生上の問題となることを予防したい国でも、効果的な包括的タバコ対策を実行することが望まれます。発展途上国の多くでは、とりわけ女性の喫煙率は低く、タバコの健康への重大な有害性が解明されないうちにタバコ使用が瞬く間に広がった先進国の苦い経験を回避する時間はまだあります。いまやタバコの有害性はしっかり解明されました。ですからこの情報は、タバコ関連疾患が世界中に蔓延すると大変な犠牲者が生まれるという予測を現実のものにしないために利用できますし、そうしなくてはなりません。経済と社会の発展に必至になっている国にとってタバコ対策は優先度の低い政策となりがちです。しかしいま強力なタバコ規制対策を実施しなければ、若い世代の喫煙が増え、感染症による早死にから救えた命を中年になって失うことになります。

タバコ災害のモニターを行う


タバコ規制を行うための政策と計画を立てるためには、タバコの健康影響およびタバコ使用を促進する社会的文化的因子に関する信頼できる時宜にあった情報が不可欠です。タバコが重大な健康破壊因子であり、将来その健康被害が激増する危険が大きいことを考えるなら、タバコ使用の現状とタバコ関連疾患の動向を定期的につかむことはそれぞれの国の健康情報システムにとって核心的な事業となります。タバコ関連疾患の流行は常に変化しながら進行してゆくため、定期的に適切な情報を手に入れることは、タバコ災害の制御に大きく役立ちます。
健康増進の政策と計画が世界各国から集められたタバコ災害のモニター情報に基づいて立案実行されるなら、こうした活動の効果はさらに上がります。世界全体、地域別、国別のタバコ使用状況と健康被害の継続的監視とタバコ対策政策と計画の評価を行う方法を統一したならば、よりいっそうそれらの活動がやりやすくなるでしょう。


第2章 包括的タバコ規制のための国レベルの行動計画



最終目標と当面の目標


タバコ規制運動の最終目標は、タバコ製品の使用による死亡や障害を減らすことです。これは次に示す活動を通じて達成されます。

本書に紹介されたタバコ規制計画の立案機構と成功例をそのまま取り入れる必要はありません。これらは(他の国や組織の活動の成功例も同様ですが)計画を立てる際の手引きとして利用して下さい。しかし現実的で実行可能な計画を立てなければなりません。ですから、ここに示した実例をそれぞれの国の文化的特性に合うように配慮する必要があります。正式な組織や計画をつくり、役割分担を決めることそれ自体は最終目標ではなく、活動を成功させる手段です。したがって、常に最終目標をめざした計画を立てなければなりません。最終目標を達成する上で役立つかどうかで計画の値打ちが決まります。民間団体が情勢を変える大きな役割を果たすこともしばしばあることから、民間団体にたいする支援を行う必要もあります。
次の項目は世界保健会議等の国際的あるいは政府間組織の決議と勧告にしめされた包括的タバコ規制計画の内容として欠かすことのできない課題です(順不同)。

  1. 促進、支持、調整すべきタバコ規制活動の焦点となる分野をはっきり決めて運動を続けること。
  2. タバコと健康の問題に取り組む充分な予算と人材を備えた全国的調整組織を作ること。
  3. 紙巻きタバコ喫煙をはじめとしたタバコ使用率とタバコ関連疾患頻度の動向および全国的喫煙規制活動の効果をモニターすること。
  4. 喫煙開始防止と禁煙のためのキャンペーンと教育を行う効果的なプログラムを提供すること。
  5. 交通機関・公共施設・職場の受動喫煙被害を確実になくす対策。
  6. 医療機関は禁煙にすること。医療従事者は禁煙してよいライフスタイルの手本を示すこと。医療従事者は自己訓練とカウンセリング、禁煙の支援活動を通じてタバコを吸わない生活の素晴らしいことを強調すること。
  7. 所得や物価の上昇を上回る率でタバコの小売り価格をあげること。
  8. タバコ税の一部をタバコ規制対策予算と文化・スポーツ活動の後援費用に回すこと。
  9. いかなる形のタバココマーシャル、販売促進活動、スポンサー活動も全面的に禁止すること。
  10. さまざまな内容の強力な有害警告文をタバコのパッケージに表示することを法的に義務づけること。
  11. 未成年者へのタバコ販売禁止を含む、こどもが簡単にタバコ製品が買えないようにする対策をとること。
  12. 効果的な禁煙支援が手軽に利用できるよう対策をとること。
  13. タバコ製品のタールとニコチン量の規制。
  14. タバコ製品の煙に含まれる有毒物質の種類と量の報告を義務化する。
  15. タバコ耕作従事者の転業対策。

タバコ規制政策を実践した例は現在数多くあります。BOX1にネパールの経験を示します。先にあげた項目からその国の実情に合った政策を選んだ理由を解説しています。


BOX 1.ネパールにおけるタバコ規制政策立案

ネパールは3年間の準備ののちきわめて実際的な多方面にわたるタバコ規制計画を実施できました。それにより、タバコ対策に関する国の重点が定まり、医療施設、公共施設、職場、公共交通機関における受動喫煙を有効に防止できるようになりました。加えて、ネパールの健康教育プログラムを喫煙開始防止と禁煙推進に重点をおいたものに変え、タバコに特別税を課して公衆保健向上の新たな資金を念出しました。
ネパールは、上に示した包括的タバコ規制プログラムのほとんどの項目を実行するするための活動、時間表、資金源を明らかにしました。しかし複雑で高額な基盤整備費用を必要とする7、11、13、14項目のモニターと実行は世界の最貧国のひとつであるこの国では行えませんでした。したがってネパールではこの4項目以外の項目に重点を置き、実りある成果を生むことができました。

WHOの行動計画

タバコ規制政策の強化は複雑かつ重要な課題です。これを成功させるには注意深く計画を作ることが必要です。またつねに新たな状況に対応できるよう修正する必要があります。WHO本部の「タバコか健康かプログラム」は1988〜95年までの世界保健会議によって承認された行動計画に基づき実行されています。1996年第49回世界保健会議は1996〜2000年の「タバコか健康か行動計画」を承認しました。WHOのタバコ規制を強化する世界的活動はこの行動計画に沿って行われます。

WHO本部行動計画

要約すると、WHO本文の行動計画草案は、以下に述べる3つのプログラムコンポーネントに従って目的・アプローチ法・活動内容を概説しています。

<プログラムコンポーネント1:国別および国際的タバコ規制計画>タバコ使用の予防・削減のための国別あるいは国際的タバコ規制プログラムを充実強化する。この計画では目的達成のため3つのアプローチ法と6つの活動を詳しく解説している。
<プログラムコンポーネント2:支援活動と一般市民への広報活動>タバコのない社会のコンセプトを広める。この計画では支援と市民への宣伝活動のためのアプローチ法を解説し「タバコアラート」の定期発行を含む9つの必要な活動を解説している。
<プログラムコンポーネント3:タバコか健康か研究情報センター>タバコと健康に関する正確な疫学知見、タバコ消費を減らす戦略に関する情報の収集、検討、普及。
この目的を達成するためのアプローチ法1つと4種の活動を解説している。
タバコとその健康被害に関する地域行動計画を積極的にレビューし改良しているWHO地域事務所もいくつかあります。

WHO地域事務所の行動計画

【南北アメリカ地域】ラテンアメリカ「タバコか健康か」諸組織共同行動計画(Latin American Interagency Plan of Action on Tobacco or Health)ではパートナーシップが成功のカギとなっています。この計画は1995年に実行にうつされ、参加したすべての組織−全アメリカ州保健協会(PAHO)、タバコ規制のためのラテンアメリカ調整委員会(CLACCTA)、米国疾病予防センター(CDC)、米国国立ガン研究院(NCI)、米国ガン協会(ACS)、国際対ガン連合(UICC)、ヘルスカナダ−の資金で運営されています。この計画の目的は、加盟国にタバコ規制活動を強化するための技術的支援を行うことにあります。具体的には、参加6カ国の(タバコ災害)診断の基準線を確立すること、(タバコ規制対策のための)全国プログラムや組織間共同プログラムが適切に決まるよう、全国組織を作り運営し調整すること、そして運動の前進とプログラムの成果をモニターする方法と機構を評価することです。
 この諸組織共同行動計画は、タバコ対策の第1段階をどのように行うべきかを獲得目標3、成果を表す指標11、個別活動8、すべての予算にわたり詳しく解きあかしています。この計画は、タバコ規制活動の内容を作り上げとその活動の前進をモニターする枠組みとしてきわめて優れたものとなっています。これによってラテンアメリカ全域のタバコ規制は大きく進むと確実視されています。

【東地中海地域】東地中海地域の国々のタバコとその健康被害に対する活動項目:(1)若者のタバコ使用率とタバコによる犠牲者数の調査。(2)NGOと密接な共同活動野継続。(3)明確な「タバコか健康か」政策を持っていない国々には政策を持つよう、すでにタバコ規制政策を持っている国にはそれを強化するための援助を行う。(4)受動喫煙被害から人々を守る法的処置を公衆保健当局に要求する。
1国あるいは地域的共同活動:(1)タバコ消費を減らすさまざまな推進活動を含んだ包括的政策とプログラムを作る地域的指針をつくる。(2)喫煙の害とタバコ規制対策の必要性を訴える健康教育資料をアラビア語などに翻訳して普及する。

【ヨーロッパ地域】「タバコのないヨーロッパを目指す地域行動計画」で6活動分野に沿ってそれぞれのプロジェクトを進めています:(1)タバコのないヨーロッパのための共同 (2)多分野にわたるタバコ政策 (3)タバコの煙のない環境作り (4)タバコを吸わない世代作り (5)喫煙者が禁煙するための支援 (6)対策を徹底させる指導性の強化

【西太平洋地域】WHO西太平洋地域事務所は1995〜99年までの「タバコか健康か行動計画」を作り、5つの目標を、具体的なゴールと活動、実現までのタイムテーブルとともに提案しました:(1)包括的タバコ規制政策とプログラムを国毎に作り実施し強化する (2)タバコ使用率の調査 (3)健康推進の諸勢力、教育、情報活動の支援 (4)適切な法的対策の支援 (5)この地域のタバコ使用を減らすための価格政策実行

ヘルス・プロモーション

タバコの健康被害はよく知られているから、この上市民にこの情報を伝える必要はないという議論がしばしばなされます。しかし先進国においてさえ、タバコの健康被害の大きさと禁煙の効果と禁煙を支援することの大切さは充分に認識されているとは言えません。この結果、膨大な数の人々が、自分達の健康のために充分な情報を知らされたうえで(タバコを吸うか吸わないかを)自己決定する権利を奪われています。発展途上国では知識の広まっていない事態は深刻です。世界中の人々に常に適切なメッセージが届くようにするためには非常な努力が必要です。また、こども達にタバコの健康被害の教育を行うことも欠かしてはなりません。
この章の後半で詳しく触れるように、包括的タバコ対策のカギとなるもうひとつの要素は財政政策の調整も含む法的対策です。財政的条件がきびしいため、優先する対策を絞る必要がでてきます。そうなると文化状況に合った費用効果のよい戦略を適切に組み合わせる必要があります。このような組み合わせは、この後に触れるさまざまなカテゴリーの活動から選ぶことができます。

禁煙デー

WHOは毎年世界禁煙デー(5月31日)を後援しています。そのために毎年の年間テーマに合わせたさまざまな資料を製作しています。各国の禁煙デーを含め、世界禁煙デーの1日あるいは数週間、数カ月間続けてイベントを行い、禁煙デーが一般市民とメディアの関心をタバコ問題に集める上で有用な役割を果たしている国々もあります。これは同時にタバコ問題に関する政策を周知させるよい機会でもあります。タバコ規制政策の強化がほとんど実現されていない国々でも世界禁煙デーにちなんだ行事を行うことが可能です。こうしたイベントは、包括的タバコ規制活動を前進させる効果的な機会となり、とりわけ年間テーマに基づいた長期的なタバコ規制政策の推進のチャンスとなります。

マスメディアによる支援


タバコと健康はもともとマスメディアにとって大きなニュースバリューのあるテーマです。このテーマは興味深い情報としてマスメディアに提供できるため、メディア側はニュース、特集番組(記事)、論評記事などの形で報道したいと考えます。しかし住民の健康を担う側が積極的にメディアにニュースを送らなければ、メディアによる報道は増えません。これを成功させるには多くのコツと経験が蓄積されています。
ニュースメディアはとにかくニュース性のあるものを求めています。ですからタバコ問題をたくさん報道してもらおうとするなら、ニュース価値の上がるように情報やイベントを送り届けることが必要です。マスメディアの注目を引くには、今までにない新しい情報や活動、イベントを効果的に迅速にメディアに届ける必要があります。影響力のある人物や人気のある人物を起用してニュース価値のあるイベントを準備する必要もあります。公衆保健専門家はつねに新たな研究調査、報告、禁煙活動、政策提言、反タバコイベントを旺盛に行う必要があります。そして確実に一番新しい情報をメディアに提供する必要があります。このようにすれば、ほとんど費用をかけずに一般市民の関心をタバコと健康の問題に継続的に引きつけることができます。
ちなみに、カナダ、フィンランド、香港、ニュージーランドとノルウェーでは、タバコ規制方針について広範な市民的論議が沸き起こり、それが長期間頻繁にメディアにのり、タバコの有害性が繰り返し報道されました。その結果包括的対策が実現したのです。この論争の間に、これらの国々ではタバコ消費量が大きく減り、包括的タバコ対策が確立された後、さらに減りました。
健康教育でマスメディアが貢献する方法はほかにもあります。マスメディアが無料であるいは営業免許に付随する義務として公共サービスのメッセージを報道することがしばしばあります。保健増進団体がタバコの健康被害に関するメッセージを一般市民によく伝わるように報道するようメディアに要求することも可能です。タバコ広告がまだ禁止されていない国では、タバコ広告の放送の許可条件としてタバコの有害性に関するメッセージを放送するよう要求することも可能です。

有料コマーシャル

タバコ広告が禁止されていない国では、タバコ産業はタバコ製品の宣伝と販売促進のために莫大な資金を投入するのが普通です。1993年に米国のタバコ産業はタバコの宣伝と販売促進費として62億ドル使いました。これはWHOが同じ年にタバコ規制活動推進費として使った予算の5000倍にあたります。他の国のタバコ広告費は米国よりはるかに少ないでしょうが、それでもそれぞれの国のタバコ消費を減らすために保健関係者が使える金額をはるかに上回っていることは疑いありません。
保健関係者はタバコ産業に匹敵する有料コマーシャルをする資金を望んでも絶対に無理でしょう。またそうしない方がよいでしょう。しかし有料コマーシャルは、正しく利用するなら、タバコ消費を減らすための包括的タバコ対策の有効な手段となるでしょう。このための資金を得る手段として、タバコ税の一部をあてる方法もあります。
米国厚生長官の1994年度報告「Preventing tobacco use among young people」では、タバコ使用を予防するために有料キャンペーンを行う場合従うべき原則をあげています。

学校における健康増進活動

学校は生徒、学校職員、家族、地域住民の健康を増進する上で他に類をみないうってつけの場所です。学校は、少ない教育と保健の予算の投資で大きな健康と教育的効果をあげる機会を提供します。喫煙を促進する社会的圧力をはねつける技術を身につけるプログラムや、こども達が両親の喫煙を止めさせるように働きかけるプログラムは、少なくとも短期的効果のあることが証明されています。学校における喫煙開始防止プログラムの開発には大きな努力がつぎ込まれましたが、多くの場合長期的効果は得られていません。成功しない理由は、これらのプログラムの効果がタバコ使用を促進する社会環境によってかき消されてしまうからと考えられます。しかし、もし学校における喫煙開始予防プログラムが包括的な地域ぐるみのタバコ規制計画の一環として実施されたなら、ある程度の長期的効果があることが証明されています。
これまでに行われた活動の評価が学校における喫煙予防プログラムを練り上げる手引きとなります。同時に、可能ならば、学校ではタバコと健康に関した問題を教育カリキュラムに組み込み(例えば、生物学、社会学、数学、物理学、化学、芸術など)、送られたメッセージを補う社会的変化を促進することができます。

地域における健康増進活動

地域の公共団体を巻き込んだ包括的健康増進プログラムを実施し、それにより地方自治体の政策を変えられるなら先進国でも途上国でも大きな前進を期待することができます。このタイプのプログラムは、定期的に学校に通えないこどもにも働きかけができるという利点を持っています。このようなこどもが非常に多い国も途上国には少なからず存在します。ストリートチルドレンをターゲットとしたプログラムの実施も望まれます。非喫煙の利点を強調した地域プロジェクトの経験をBOX-2で紹介します。


BOX 2.タバコを吸わない生活奨励地域プロジェクト:ネパール

ネパールのカトマンズ渓谷の農村で行われた地域プロジェクトが成功しました。児童、生徒、校長、教師、親、医療従事者、村議会の参加した地域ぐるみの活動によって、タバコを吸わない生活のよさを広め奨励する取り組みを行いました。この取り組みの基本的手法は学校や家庭での一対一の対話活動でした。この運動の前までの喫煙率は男性85%、女性62%でした。この運動によって喫煙率は大きく減りました。同じ渓谷の他の地域の喫煙率は高いままでした。

文化・スポーツ・地域イベントの後援

スポンサー活動はいろいろな形で行うことが可能です。限られた予算でも保健団体や政府の機関が特定のイベントのスポンサーとなって健康のメッセージを送り届けることもできます。たとえば、すでにスポーツチームやスポーツイベントのスポンサー活動を実行した政府もいくつかあります。そうなると選手のユニフォームに禁煙のロゴをつけるだけで、禁煙のメッセージを簡単に広めることができるようになります。BOX-3に、スイスで行われたタバコのないライフスタイルを勧めるスポンサー活動の実例を示しました。この他にも以下のような例があります。
これらの限定的な活動も有益な効果がありますが、実現可能性のある国では、健康増進基金が多くの国で実行しているようなさらに包括的なスポンサー活動プログラムの実現を目指すべきでしょう(BOX-4参照)。


BOX 3.スイス:タバコのないライフスタイル推進活動

タバコの広告や販売促進活動の法的規制のまったくない国でも保健団体のスポンサー活動を創造的に活用することができます。一例をあげると、スイスのジュネーヴの地域的行政エージェンシーのCIPRET(タバコ予防情報センター)がきわめて創造的な保健団体スポンサー事業を編み出しました。多くの資金援助先から資金を募り、CIPRETは、ロックコンサート、長距離ラリーチーム、ヨットレース、バスケットボールチーム、オートバイレーサーなどさまざまな文化スポーツ活動を熟慮の末に選び出して、それらのスポンサーとなりました。スポンサーとなったイベントでは、タバコのない生活のよさをポジティブメッセージを用いて訴えました。CIPRETは、健康フェアであろうと自動車ショーであろうと、地域のイベントには必ず顔を出しました。地域行事に積極的に参加することは、きわめて重要かつ金のかからない健康増進作戦です。


BOX 4.オーストラリア・ニュージーランド:税収を財源とした健康増進基金

ビクトリア州に始まったタバコ税のごく一部をあてた健康増進財団は、今やオーストラリアのいくつかの州に広まりました。これらの財団は、以前はタバコ産業が資金を出していたすべての文化スポーツイベントのスポンサーを引き受けて、タバコのないライフスタイルの勧めを含めた、総合的な健康なライフスタイル推進のためのスポンサー事業を行っています。さらに、これらの財団は、さまざまな地域のスポーツ・文化イベント、文化団体に資金を出し、地域の発展とタバコ規制対策の検証プロジェクトも後援しています。このように健康推進財団を作ることによって、包括的タバコ規制対策の強い反対者(以前タバコ会社からスポンサー資金をもらっていた団体)を味方につけることが可能となりました。これらの健康推進財団の設立と運営に関する資料は豊富にあります。
ニュージーランドでは別の形のスポンサー作戦が成功しています。この国では、ほとんどすべてのタバコの広告、販売促進、スポンサー活動が禁止された包括的タバコ規制法が制定されました。ニュージーランドでは、健康増進スポンサーシップ委員会が設立されきわめて大きな成功をおさめています。この資金は一般税収でまかなわれ、 タバコのない生活の推進に役立つ広い範囲の健康増進活動をおこなっています。


禁煙 Cessation of smoking

喫煙規制の最終目標が喫煙関連死を減らすことにあることを考えると、ひとりでも多くの禁煙者を作り出すことが特別に重要な課題となります。米国厚生長官1990年度報告書が述べているように、禁煙すると多くの病気が予防できます。まず病気の起こることを防ぎます(一次予防)。また再び病気が起こることも防ぎます(二次予防)。したがって喫煙関連疾患を減らすためには禁煙が非常に大きな役割を果たします。さらに、一次予防が死亡統計を改善するためには現在の青少年が喫煙関連で死亡する年令まで30〜50年の期間が必要ですが、禁煙は数年以内の死亡の危険を減らします。1988年の米国厚生長官報告とWHOの国際疾患分類(International classification of diseases)において、ニコチンはヘロインやコカインと同じカテゴリーの依存性薬物と明確に分類されました。
禁煙が成功するために必要な事がふたつあります。タバコをやめようという動機とニコチン離脱症状に打ち勝つ力です。したがって喫煙規制政策の中期的目標には、禁煙の動機を高める働きかけと、離脱症候群をやわらげる対策の両方が必要です。依存の強さや強度は喫煙者毎に違うため、それに応じた対策が必要です。
調査によれば喫煙者の75〜80%は禁煙したいと望んでおり、3人にひとりは少なくとも3回以上真剣に禁煙を試みた事がありますが、60才になる前に禁煙に成功する人は喫煙者の半数に届きません。ニコチン依存こそが禁煙の成功を妨げる一番大きな障害物なのです。したがって、喫煙規制政策には喫煙者の禁煙への動機を強める対策(健康教育、キャンペーン、価格政策、喫煙区域制限、行動療法など)とニコチン離脱症状の緩和対策(行動療法および薬物治療)の両方が必要です。
ヘルスケアシステムの整備された国々の市民は毎年1回は医師あるいは歯科医師を受診し、彼らのアドバイスを真剣にきく機会があります。短時間でもきっぱりと禁煙するようにアドバイスすると、喫煙者の5%は禁煙に成功します。これはこのようなアドバイスがない場合の年間禁煙率1〜2%をはるかに上回る禁煙率です。医師による短時間のアドバイスにニコチン置換療法(Nicotne Replacement Therapy:NRT)を併用すると、1年後禁煙成功率はさらに高まります。NRTの短期的コストは高いのですが、長期的にみると喫煙者個人にとっても政府にとっても、費用効果がよい対策となります。またどうしてもニコチン依存から抜けられないが、タバコ製品からのニコチン摂取で大きな健康被害を受けるよりは、NRTを受け続けた方が健康被害が少なくなるという考え方でNRTをずっと続けるやり方もあります。しかし、ニコチンもドラッグのひとつであり、指示と異なるやり方で使用された場合は特に健康被害がもたらされる危険があります。なかでも、心臓病を持つ患者では、NRTを行いながら喫煙を続けると、心臓発作の危険が更に増します。現在までの研究によれば、指示通りNRTを行うならば、ほとんど危険はありません。しかしNRTを行いながら喫煙をする事の決してないようNRTを受けている者にしっかり警告する必要があります。一般論としてNRTを適正に実施するためには、NRTを受ける可能性のあるすべての人に対して、しっかり訓練された者によるアドバイスと情報が不可欠なのです。
多くの人を対象とした禁煙治療を成功させるには、特別の禁煙プログラムさえあればよいというものではありません。現在タバコ依存症を治療できる専門家は少数しかいません。医師、看護婦、薬剤師を含むすべての医療専門家は、タバコ依存症にたいするアドバイスと治療を行う技能を身につけるために基礎知識の習得と臨床の場での研修を保証する必要があります。
全国的タバコ規制計画と戦略を立案するにあたり、作成担当者は、最も成功率の高い集団禁煙プログラム、医師のアドバイスおよび可能なところではNRTを組み合わせた幅広い禁煙推進戦略を実現するよう要求してもよいでしょう。全国的保健システムの存在する国では、ニコチン依存症のカウンセリングと治療費をその国の健康保険プログラムの給付対象とすべきです。
マスメディアプログラムは禁煙した方がよいという雰囲気を作るほかに、禁煙を成功のためのアドバイスやヒントを伝え、幾百万の人々に情報を送り届ける事ができ、医療専門家のアドバイスを補う有用な役割をはたしています。

健康を守るために

法的対策

世界保健会議の決議では包括的タバコ規制政策の必要を繰り返し訴えています。これらの政策を最も有効に実現するには最終的に法律を作る事が必要だ(BOX-5)というのが多くの専門家の意見です。特にコマーシャルの制限とタバコの箱への有害警告表示をタバコ産業の自主規制にまかせる事に反対するよう各国政府にアドバイスされてきました。特に世界保健会議決議WHA43.16 では、タバココマーシャルの規制は、タバコ産業の自主コードではなく、法律によって規制するよう勧告しています。環境タバコ煙(受動喫煙)の問題は職場が禁煙の方が望ましいと気がつく雇用主が多いため、自主規制や職場規則によって対策がとられる事が多いようです。しかし、受動喫煙防止対策を確実に進めるためには法的規制がぜひとも必要です。受動喫煙を防止するための自主規制から法的規制までのさまざまな方法とそれを実行するための現実的な手段をどうするかは1991年(公共の場の受動喫煙)、1992年(職場の受動喫煙)、1993年(医療機関)の世界禁煙デーのテーマでした。これらの資料を活用して、受動喫煙の防止対策を強化する段階的アプローチを行う参考とする必要があります。

BOX 5.包括的タバコ規制対策のカギとなる法的対策

包括的タバコ対策に立法措置は不可欠です。タバコ災害を効果的になくすためには多くの活動が必要ですから、法的対策の不可欠な事は言うまでもありません。このために必要な対策は、ドラッグ対策にあたって多くの国の政府がとってきた立場に習い、単一の法律でタバコの製造・輸入・マーケティング・使用などすべての事項を幅広く規制できる事が望ましいのです。また複数の法律が必要になる場合も有り得ます。いずれにしても、以下に述べる権限を規定した法律が望ましいと言えます。
  • タバコのもたらす害の甚大さに見合ったタバコ入手規制。具体的には:
    • 消費を減らす事のできる課税法。
    • 医療・教育・スポーツ施設でのタバコ販売禁止。
    • 自動販売機とセルフサービス店でのタバコ販売禁止。
    • 実効のあるこどもへのタバコ販売・頒布禁止措置。
  • 現在の喫煙者と将来喫煙者になる可能性のある者に、タバコ使用に関して充分に情報を知った上での真の意味で自由な選択を行う権利を保証する事。具体的には:
    • あらゆる直接・間接タバコ広告の禁止。いかなるタバコ広告も消費者に誤った観念を植え付けるからである。
    • タバコのラベルやパッケージに描かれている誤ったメッセージの一掃。
    • タバコのパッケージの上(できれば中にも)と小売り店頭に最新の詳しく目立つ健康情報を表示する事。
    • すべての有害物質と添加物を公表する事。
    • タバコ産業の役割を含む一般市民への公衆衛生教育徹底の義務付け。
    • タバコ使用を中止したい者とタバコによる被害の補償を求める者への支援。
  • タバコを使用しない者の健康・権利・快適な生活を守る事。具体的には:
    • 公共施設・職場・交通機関の確実な禁煙措置。
    • 環境タバコ煙被害者の救済措置を保証し簡便化する。
    • タバコ製品による火災などの環境被害の防止(あるいは)補償の法制化。
  • タバコ製品そのものの法的規制。具体的には次の項目を含む。
    • ニコチン供給機能を持つ特定カテゴリーのすべての製品の禁止権限。
    • タバコ製品に添加可能なあるいは必ず添加されている物質の規制。
    • タバコ製品に含まれる有害成分の許容限度に関する規制。
    • タバコ製品の改変を要求する権限。


包括的タバコ規制戦略を成功させている国々では、これまで述べたすべての分野で法律を作って対策を進めています。普通大蔵省が取り扱う課税のための法律については、本章の後半で触れます。法律による規制が大きな効果を持つと考えられるそれ以外の問題についてはここで論じます。
付録2にそれぞれの国の状況に合わせて使用できるタバコ規制法のモデルをのせました。文化、言語、行政・立法システムが国によって大きく違うため、自国に適していると思われる国のタバコ規制法をよい例として学ぶ必要があります。新たにタバコ規制法を立案する立場にある人は、他国の法的対策の経験をどう自国の実情に合うように生かせるかをよく考える必要があります。法律の制定と施行のシステムが国によって非常に異なるため、この分野に関するアドバイスを行う事はできません。しかし保健関係者と立法関係者は自国の規制法の実施の参考のために他国の経験を学びたいと考えるでしょう。
一気に本格的な包括的法規制を実行できない国もあるでしょう。WHOはすべての国にそのような法律が必要と考えますが、多くの国ではいくつかの段階を経なければゴールに到達できないと思います。各国の状況を充分考慮にいれたうえで、各ステップの対策が、今後の長い期間の努力の一歩一歩になると思った方がよいでしょう。同時に、途中のこまごまとした小さな法的規制を積み上げるというプロセスをやらないで済むよう、広い範囲を網羅する法律を作る方がよい場合もあります。法律の草案を作る段階で、どうしても政治的情勢が不利なために望ましい規制案が作れなくとも、以下に示す方法で対処できます。
これらの条項は、包括的タバコ規制対策のカギとなる内容です。例えば、タバコの箱の10%以上の面積に大きく目立つ有害警告表示を義務づけた国は、現在ではオーストラリア、アイスランド、シンガポール、南アフリカ、タイなど数多くあります。
多くの国や地域で、こどもへのタバコ販売禁止を徹底させる積極的措置が役に立っています。こうした戦略では、タバコ購買許可年令に達しないこどもの協力で、こどもにタバコを売らないという規則が守られているかどうかを調べ、法律を守るようにさせる働きかけをするのが一般的です(訳者注:小売り店でこどもがタバコを買う事ができるかどうかを試すテストの事)。

財政的対策

タバコ規制の経済学をテーマにした1995年の世界禁煙デー提案キットでは、タバコ規制プログラムを前進させる資金を確保する手段としてタバコ税増税戦術をとる理由を解説しています(BOX-6参照)。そこでは国全体のタバコ規制政策を強めるためにタバコ税をどんどん増税する財政戦術がどうしても必要な理由が展開されています。付録3にその提案キットの抜粋をのせてあります。


BOX 6.財政的対策のハイライト

  • 莫大な健康被害に加え、たばこは年間世界中に2000億ドル(30兆円)の経済被害をもたらしています。その被害の半分は発展途上国で生じています。
  • タバコ税増税によりタバコの小売り価格を上げる事は、それだけでタバコ製品の消費を確実に減らす事のできる唯一の政策です。
  • タバコ税増税とタバコ税収の一部をスポーツ、芸術、文化活動の後援にあてる事で、健康のメッセージを広めながら、タバコ産業とこれらの社会分野の経済的クサレ縁を断ち切る事ができます。
  • タバコ製品の最低価格を制限する事によって、価格によって消費を左右されやすい階層(とりわけこどもと若者)をタバコ市場から遠ざけ、彼らが喫煙を始める事を防ぐ事ができます。
  • 政府が介入しなければ、実質可処分所得の増えるに従ってタバコ消費も増えます。これは経済成長率の高い発展途上国でとりわけ目立った現象となっています。
  • このように、実質収入の増加につれてタバコ製品が買い易くならないよう、また、現在喫煙中の者を禁煙に向けて誘導するために、タバコ製品の価格は通常の物価上昇率を上回る率で値上げする事が必要です。
  • すべてのタバコ製品に課税する事により、(スモークレスタバコや自家製手巻きタバコなどの)他の種類のタバコ製品への乗り換えを防ぐ事ができます。
  • 政府にとってタバコ税を値上げする事は国民の健康だけでなく、財政にも望ましい効果があります。こうして得られた追加税収は、医療費や健康増進活動の他に、他の費目の減税財源として使えます。
  • タバコ税は比較的徴収しやすい税金です。ですからタバコ税収でまかなう必要のある徴税経費はごくわずかで済みます。
  • タバコ税増税は、それをこどもや若者の喫煙防止に使うという趣旨が理解された場合、比較的国民に、喫煙者にさえも受け入れられやすい事が多くの経験から明らかになっています。


タバコ課税戦術の第一の目的は、タバコ製品を購入し難くして、タバコ消費を減らす事にあります。物価の上昇率を上回る小売り価格の値上げが必要な場合もしばしばあります。これは、実質収入が増えるとタバコの購買力も増すからです。とりわけこの現象は経済成長の急速ないくつかの発展途上国に見られます。喫煙率は高いが収入が少ないためにタバコ消費のおさえられている国を例に考えてみると、経済が成長すると、それに見合ったタバコ税値上げが行われなければ、タバコ製品の購買力が増して、タバコ消費は急速に増えるでしょう。
物価上昇率以上にタバコ税を引き上げ、税収の一部をその国の包括的タバコ規制プログラムを構成するタバコ規制対策の財源にあてる事は繰り返し勧告されています。このような方法を採用する事によってすべてのタバコ規制対策を効果的に実行でき、しかもそのための予算もまかなう事ができます。このやり方は、新たな公衆保健政策のための予算不足に悩む発展途上国にとり特に重要です。
もうひとつの財政手段は、課税前のタバコ製品の価格を制限する事です。これにより独占的市場支配によってタバコ産業の懐に入るはずだったきわめて多額の利潤を減らす事ができます。しかも小売り価格を値上げせずにタバコ税の増収をはかる事ができます。インフレ規制対策によってタバコ会社のタバコの小売り価格値上げが禁止されていた1980年代のブラジルでこうした状態が実際に経験されました。値上げで利益を増やす事ができなかったタバコ会社はコスト削減をはからざるを得ませんでした。その結果、タバコの広告や販売促進活動が大幅に減りました。この状況は価格凍結が解除されるとともに、以前の状態に戻りました。
タバコ税増税に反対する主張も数々なされてきました。タバコの密輸が増えるのではないかと言う心配から、タバコの値段が安い事は貧困層に対する福祉であるという主張まであります(皮肉な事だが、タバコが生み出す財源が貧困層に真の意味での福祉−基礎的医療ケアの充実をもたらす事が多いのだが)。

タバコ産業からの経済的転換

タバコは非常に依存性が強い商品であるため、最も対策がうまくいった場合でもタバコ消費の減少は徐々に進行するはずです。したがって、タバコ産業の労働者の他産業への移動といった経済的調整はゆっくりとスムーズに行う事ができます。
しかし充分長期的見通しのなかでタバコ産業の衰退には長い時間がかかるという予測が立てられます。タバコ産業で働く人々のために別な産業で働くよう援助をするという政策は望ましいものです。その政策を出す事により、農務省、タバコ産業労働者、そのほかタバコ産業から経済的利益を受けている人々がタバコ規制計画に反対するのを思いとどまらせ、包括的タバコ規制戦略を支持するよう説得できます。広大なタバコ農園をかかえている地域では、国連の食糧農業機構(FAO)に代替農産物経野天間を援助するよう要請する事が可能です。
カナダで成功した包括的タバコ規制戦略には、タバコ耕作農家に転業のための補助金が含まれています。タバコ耕作から撤退すると約束したタバコ農家には一時金も支給されました。カナダでは10年間でタバコ消費量は40%減り、たばこ耕作農家は半減し、タバコにかわる新たな経済活動に転換したタバコ栽培地域の経済成長率は大きな伸びを示しました。ブラジル、マレーシア、フィリピンなどでは、タバコにかわる望ましい産業活動を捜し求めています。
バングラデッシュでは、タバコ栽培地域で成功した「模範地域プロジェクト」では、その地域のタバコ消費量を減らす事ができたばかりでなく、きわめて多くのタバコ耕作農民を食糧耕作に転換することもできました。また、この地域ではタバコよりも食糧を生産する方が利益が大きい事も証明されました。

活動能力の強化

活動能力強化とは、タバコ規制活動を支援するための人的、財政的、組織的資源を長い期間にわたり発展させることです。タバコ規制対策を進める基礎を作るためには、最終目標を常に念頭に置くことが必要です。ときに、ある問題を解決するための対策や活動が他の問題の解決のに不必要なばかりか障害となることさえあります。たとえば、タバコ規制活動の焦点のひとつは、公衆の健康を大きく改善する触媒となることですが、もしその活動の方向や視点がしっかりとタバコ規制の成功に向いていなければ、この活動に対する障害物に転化する危険があります。
タバコ規制のための最適な活動能力のレベルはあらかじめ設定されたゴールに到達する上で何が必要かによって決まります。現実には、タバコ規制活動はある個人活動家あるいは小さなグループの活動から始まることが少なからずあります。また彼らだけが取り扱っているという課題もあります。いっぽう、詳しい情報と協力活動、継続的な財政基盤を必要とする課題に直面することもあります。ある特定の課題を解決する戦略を進めるためには、その状況に応じた適当なレベルの活動資源が確保されればすみますが、活動能力総体を向上させることにより、将来の活動のための人材や資金を確保することができます。しかしながら、包括的で持続的なタバコ規制活動を実現しようとするなら、広範な人々の支持を得ることが必要です。
活動能力強化は本来ゴールを目指して行われるため、タバコ規制活動において以下に示すカギとなる役割をはたします。
活動能力強化が関心のある個々人に行動方針を提供するあるいは情報の交換や普及を意味する国もあります。タバコ規制のための活動能力は、情報を集め活用する能力や政府内外の支持を増やすこと、それにタバコ規制に反対する意見を中和することで大きく向上します。次章はこれらの問題を論じます。

モニタリングと評価

タバコ規制のための望ましい全国プランは、タバコとその健康被害について第4〜9章で述べた適切なすべての指標を継続的モニタリングするプログラムを含んでいます。これらにはあまり費用がかからず調査しやすい項目も含まれています。
よい計画には政策やプログラムが進行するにともないもたらされる前進、成功、失敗を注意深く評価する項目が含まれます。このような評価の結果は、タバコ消費を減らす活動がさらに成功するよう、計画やプログラムを修正したり新しくするために活用されます。
タバコ規制活動の評価のためには、事前に注意深くプログラムを作っておく必要があります。国毎のタバコ規制プログラムに健全な評価システムを組み込むにあたっては、「Evaluating tobacco control activities:experiences and guiding principle」をお読み下さい。

結論:キーポイント

以下に包括的タバコ規制の行動プランを準備するにあたっての心得ておくべきキーポイントを示します。

第3章 全国的行動計画の実行



 1950年代からタバコの健康影響に関して6万点以上の報告書が発表され、次に述べる結論を裏づける確証となっています。
 世界中にタバコの危険性が知れわたっているにもかかわらず、保健省とNGOの本棚は、優れてはいるがまだ実現していないあるいはよく重要性を認識されていない全国的タバコ規制プログラムを強化するための行動計画であふれています。これらの計画が実行されないのは、保健計画立案者が、タバコ規制プログラムへの強力な反対論を打ち破ることができない、あるいはタバコ規制賛成の支持を適切に集めることができないためであることが多いのです。このようなわけで、包括的タバコ規制プログラムを実行する事業がとりわけ挑戦するに値する、他の重要な公衆保健問題の取り組みとは大きく異なるものとなっているのです。
 包括的タバコ対策方針を実行しようとするとき、タバコの利害関係者と激しく衝突するのは必至です。そのような反対を乗り越える明確な戦略がなければ、いかなる新たなタバコ規制計画でも、これまでと同じように御蔵入りになるおそれがあります。
 タバコ規制対策に対する反対を乗り越える正確な処方箋を描くことはできません。この挑戦は病気の治療というよりは、フットボールゲームに勝つ作戦を練ることに近いでしょう。充分な準備が必要なことは言うまでもありません。しかしどのような活動が必要となるかはほとんど予測不可能です。戦略をあらかじめ示すことはできますが、反対勢力の活動に応じて柔軟に対応しなければなりません。スポーツへのたとえを続けるなら、すべてのゲームに勝つことなど有り得ません。途中で後退を余儀なくさせられることもあります。しかし注意深く計画を立て、首尾よく実行されたプランがあれば公衆の健康を守る側が勝利をつかむでしょう。

タバコ規制計画を実行するための7原則

1.充分に準備をする
 1994年世界最大のタバコ会社の年間営業収入は650億ドルで、これはイスラエルやポルトガルの国民総生産に匹敵します。タバコ会社は、タバコ規制に関するいかなる議論に対しても自分達の経済的利益を守るために膨大な文書を用意しています。公衆の健康を守る側も、同じように充分に調査された正確な情報に基づいてよく準備する事が可能です。
 この本に記された情報を集め活用するテクニック、概観図、プランを利用する事が助けになるでしょう。だからと言って、あらゆる情報を覚える必要はありません。必要なときにすぐに思い出して、政策変更を行う場合に活用できさえすればよいのです。

2.柔軟に対応する
 タバコ規制政策に反対がつきものだとすれば、ある政策を進めようとするときに必ず障害物が現れるはずです。例えば、タバコ広告を法的に禁止する提案を行うと、反対意見が巻き起こることがあります。この場合、実現する見込みのなさそうな方針でがんばるよりも、別なタバコ規制活動に力を向け直す方がよいこともあります。タバコ税の値上げを主張したり、職場の受動喫煙対策を進める方向で活動を進めてゆきます。しかるのち実現の見通しが明るくなってから、以前断念した政策の実現にとりかかるといった具合です。

3.チャンスを生かす
 タバコと健康の問題を扱う公衆保健従事者は、あらゆる機会を生かしてタバコ規制の強化を支援する活動に結びつける必要があります。
 例えば、ベンゼンの混入が疑われて一時的に市場からミネラルウォーターがひきあげられた事件がニュースで報道された時、その程度のレベルのベンゼン汚染なら、一生そのミネラルウォーターを飲み続けてもまったく追いつかないほどの大量のベンゼンを、喫煙者なら一日で紙巻きタバコから吸い込んでいると指摘した発表資料をすぐに準備した健康派活動家がいました。

4.負けいくさを勝ちいくさに変える  タバコ規制を進めようとする勢力に反対するために行われるプロモーションイベントを利用することができます。可能なときは、BOX-7に示すように、タバコ消費を促進するためのイベントや活動を公衆の健康増進を目的とするイベントに変えるという、想像力に富んだ活動を試みる必要があります。

BOX 7.タバコのプロモーションを健康のプロモーションに変える

 1981年、あるオーストラリアのタバコ会社が、自分達のタバコブランドの宣伝に使うために(そしてかの有名なアメリカタバコの宣伝で知られたアメリカ人のカウボーイにとってかわるために)、力強いオーストラリア人のカウボーイを選ぶ25000ドルの賞金のあたるタバコ販売促進コンテストを開催しました。多くの医師を会員に持つオーストラリアのタバコ規制活動団体は、タバコ病の犠牲者で、いつも気管切開孔でタバコを吸っていたフランク氏に、応援するからコンテストに出てほしいと要請しました。フランク氏はそれを承諾しました。フランクの写真と「フランクは勝てるか?」という見出しを印刷したポスターが広く配られました。フランク氏は優勝できませんでしたが、コンテストの結果を報道した4紙のうち3紙がフランクがコンテストに応募したことをコラムで紹介しました。このコンテストはタバコ規制勢力側の「負け」となるはずでしたが、少しだけ勇気と想像力を発揮しただけで、公衆保健勢力の「勝ち」いくさに変えることができました。この取り組みはのちにオーストラリアにおける包括的タバコ規制法の制定となって結実した数多くの公衆を引きつける活動のひとつでした。その法律ではフランクが参加したようなタバコの販売促進活動の禁止もうたわれています。

5.多くの人々の心を動かす主張を行う
 タバコ規制活動支持のコンセンサス作りにあたっては、公衆保健従事者は公衆の健康問題にあまり関心のない分野の人々と接触する必要が出てきます。この場合、健康を脅かす因子を減らすためにどうすべきかという議論よりも、あなた方の経済的負担を減らすことができるという主張を行う方がはるかに説得力を持ちます。例えば、財務省にアプローチする場合は、タバコ税から新たな収入を生み出せる、タバコ税増税は世論調査で大多数の支持を受けている(あるいは他の課税政策よりもずっと反対が少ない)、長期的にみると節約になる、徴税費用はタバコ税の増収分をはるかに下回るなどのことを強調する必要があります。もちろん、この施策が公衆保健の目標達成を助けることも言い忘れてはなりません。
 タバコ規制推進の側は、(訳者加:禁煙にすると乗客が減るのではないかという)航空会社の感じている経済的不安に対して、完全禁煙便を希望する乗客はもっと多く、もし禁煙便が増えたなら顧客サービスの向上につながると主張するのもよいでしょう。完全禁煙便にすると、1996年7月1日までにすべての国際便を完全に禁煙にせよという民間航空機構(Civil Aviation Organization:訳注:JALやANAも加入しています)決議の遵守になるほかに、乗務員の健康と安全が向上し、清掃とメンテナンス費用が減らせるという主張もできます。そして結びとして、公衆保健が大きく向上することをつけ加えるとよいでしょう。
 禁煙による会社や工場のコスト節約論は次のように展開できます:職場を禁煙にして、受動喫煙被害をなくすと、従業員の健康状態がよくなり、欠勤が減り、メンテナンスや清掃コストが少なくて済み、火事の心配もなくなり、従業員の志気も高まり、従業員を故意に明確な危険に曝したかどで雇用主が責任を問われるかねない訴訟も予防できます。
 タバコ規制運動にたずさわる者は、ともに戦う仲間になれる可能性のある人々のいだく主要な心配や懸念をつかみ、協力を要請されているタバコ規制活動を強めることが彼ら自身の利益につながることを説明して納得してもらう必要があります。

6.積極的に進めよう
 ただ手紙を出せば、人々が支援のために動いてくれるわけではありません。タバコ税増税について財務長官の支援が必要な場合、この政策変化をかち取るには注意深い戦略が必要です。その支援を獲得する方法のひとつは、(第4、5章の)タバコとその健康被害に関する情報を活用して、財務長官にそのような政策変化の必要性を効果的に訴える入念に調査した申し立て書を送ることです。著名な組織から広く支持されていることがよくわかるように示すことも大事です。長官、補佐官、公共サービス税制研究者、アドバイザーそれに新聞などマスメディアなどに常にコンタクトをとることも政策転換を求めるプロセス上必要です。長官にその申し立て書を呈示し、高いレベルのミーティングでその検討を行ったのち、補佐官に丁重に何回も辛抱強くコンタクトをとると、質問や疑問に答えたり、政策実現への請願や激励を行うことができます。
 あらゆる分野で、包括的全国的タバコ規制政策の強化に積極的に貢献する政策転換をかち取るには上に述べたような積極的なアプローチが必要です。

7.あきらめないでねばり強く
 包括的タバコ規制を実現する仕事はなかなか成功せず、気持ちがくじけるときもありましょう。しかし「千里の道も一歩から」と言います。公衆保健従事者は、まずささやかなタバコ対策活動から始めてみましょう。そして、経験を積むにつれ活動を強めてゆきましょう。世界禁煙デーにちなんだイベントを行うことが手始めとして適当なことは、衆目の一致するところです。
 タバコ産業の利害関係者は、自分達の儲けの多い商売を守るために必死の策動をやり続けます。ですから、資金が不足したり、耳を傾けてくれる人が少なくとも、公衆保健従事者も同じようにうまずたゆまず活動を続ける必要があります。
 タバコ税増税の主張はすぐに受け入れられるものでないことが多いため、長期的大局的な視点が必要です。しかし、政府の予算は毎年見直されますから、今年はダメでも、次の年の予算でタバコ税増税が実現することもあります。同様にタバコ広告の禁止も繰り返し要求することが必要です。ひとたび実現したタバコ規制対策を守るためにもねばり強い戦いが必要です。

タバコ規制の7つの戦略

1.タバコ規制を最優先の社会政策課題と認識させる
 タバコ規制を公衆保健上の最優先課題と認識させるだけでは不十分です。タバコ問題はその対策に必要な分野の広さと、やろうと思えばタバコの厄災は予防でき、多くの命を救うことができるという事実が示すように、きわめて重大な問題であることを強調しなければなりません。したがってタバコ規制は社会政策上もっとも優先的に取り組まなければならない問題なのです。この問題の解決に必要な政策転換の大部分は医療保健分野をこえた領域に存在するため、タバコ規制は他の医療保健上の問題は言うまでもなく、他のすべての社会政策上の課題とその重要性を競わなければなりません。公衆保健従事者はタバコ使用による健康被害の深刻さに関する全世界的、全国的、地域的データや情報、喫煙者の人数、喫煙によって殺される人の数を容赦なく発表する必要があります。新たにわかった基礎的事実を簡潔に示すのが最も望ましいのです。

2.タバコ規制にかかる費用はタバコ税でまかなう
 タバコ規制対策は金がかかりすぎて政府が実行できないという反対論があります。この議論には、世界銀行の試算によれば包括的タバコ対策戦略は、多くの公衆保健政策の中でもっとも費用効果に優れ、政府にとっては歳入増をもたらすという事実を対置できます。多くのタバコ規制対策の中で、禁煙区域を作るという対策は、ほとんど費用をかけずに実現できます。またタバコのパッケージの有害警告表示や有毒成分の分析の費用はタバコ会社に負わせるという法律を作りさえすれば、政府の出費はゼロです。タバコ税を上げるとタバコ消費量は減りますが、政府のタバコ税収は増えます。
 タバコ税増税により、包括的タバコ規制戦略の実施に要する費用だけでなく、他の公衆保健や地域発展政策の費用もまかなえます。またタバコ産業が行っていたスポーツや文化活動の後援を肩代わりできます。第2章で述べたように、オーストラリアなどの国ではタバコ税の一部をあてた健康増進基金を成功裏に運営しています。
 タバコ税をきわめてわずかだけ上げ、タバコの実質価格をごくわずか(3%未満)だけ上げても、消費削減効果は目に見えません。しかし、それでも包括的タバコ対策のための諸政策を実行する上であまりある税の増収を手に入れることができます。すべてのタバコ規制対策の費用を、タバコ税の増税によってまかなうという主張を、断固として繰り返し財務長官やその顧問に訴えるべきです。

3.友人知人の支援を得る
 第4章には全国的タバコ規制プログラムに賛同して活動する可能性のある幅広い団体について触れています。しかし可能性のまま放置してはいけません。実際に参加して活動してもらわなければなりません。タバコ規制に関心のある人々に対して、タバコと健康に関する論文を科学雑誌に寄稿するよう、健康・消費者問題・法律・若者・環境・女性などさまざまな分野の大きな会議で発表するよう、政府の委員会公聴会で専門家として発言するよう激励し説得する必要があります。保健医療関係の教育研修カリキュラムにタバコと健康の問題を入れるよう健康教育専門家に頼む必要があります。医療関係の同僚に患者の禁煙カウンセリングを頼む必要があります。そして最後にタバコ規制の前進に貢献したそれらの効果的な活動をほめたたえることが必要です。
 友人知人は大事な役割をはたしますが、包括的タバコ規制政策を成功裏に実行する上で欠かせない社会的合意を作り上げるためには、どれだけ数多くの友人知人の賛同と協力を得るかがカギとなります。

4.新たに友人を作り、彼らからも援助を求める
 タバコ利権擁護派は、文化スポーツ団体、広告会社、マスメディア、タバコ農家を財政的に従属させて、包括的タバコ規制戦略に賛同することを妨害できます。しばしばこうした業界や組織の代表者がタバコ産業の立場や方針を守るためにサービス発言をさせられます。しかしもしタバコ規制政策に、スポーツ・文化活動の後援、マスメディアと広告会社への健康増進広告の出稿、タバコ耕作農家に対する転作転業対策の実施などを含ませたなら、こうしたタバコ産業従属組織の中に、包括的タバコ規制に賛成する熱心な賛同者がたくさん生まれる可能性があります。これによってタバコ利権派はタバコ使用をなくするための公衆保健対策への反対派として孤立するでしょう。
 環境保護団体、宗教団体、タバコ税以外の(例えば所得税)減税要求団体などは、タバコ規制に賛同する可能性のあるグループです。

5.タバコ規制対策に反対する者に反論する
 タバコ利権派は、効果的タバコ対策の提案につねに反対します。タバコ産業の有能な多国籍組織があるおかげである国で行ったタバコ規制に反対する議論や反論を発展させ、研ぎすまし、試験的に使い、同じ戦略すなわちタバコ規制反対の議論反論を、すぐに世界中必要なところでどこでも使えるようにしてあります。同じ訓練を受けたスポークスマンが他の国に派遣されて同じ議論や反論を述べることもあります。
 さいわいなことに、多くの公衆保健従事者にはこうした戦術を駆使した挑戦に打ち勝つ力があり、タバコ産業の代表者がよく行う議論に反論する用意ができています。タバコ産業の主張はとても弱いため、はるか昔に敗北し反論されてしまった主張を、同じ論者が繰り返し言い張るという状態になっています。したがって、公衆保健従事者は、これまでに行われたタバコ産業派の主張とそれへの反論を学んで、自分の国でそのような論議が始まったときはすぐに有効に対応する事が可能となっています。例えば、宣伝の問題については、BOX-8にタバコ製品のCMを合理化するためにタバコ産業がよく持ち出す主張とそれに対する反論を示しました。
 喫煙を奨励せずに紙巻きタバコの売り込みをする事は不可能です。CMが喫煙を増やすことを証明することは必ずしもたやすいことではありません。なぜなら、人々に喫煙を奨励する因子はCM以外にもたくさんあるからです。それにもかかわらず、タバコの広告を禁止したノルウェーなどの国々ではタバコ消費量が長い間減り続けたという事実があります。BOX-9にノルウェーのタバコCMの禁止がもたらした効果をタバコ産業のCM禁止反対の主張と対比させて示しました。

BOX 8.タバコCM擁護論への反論


1.「タバコの販売は合法的だから、CMも合法的にやれるはずだ」
 この主張は、合法的な商品はすべて宣伝が許される、宣伝が禁止されるのは非合法な製品だけだというものです。この主張は、論点を公衆保健上の問題からタバコという商品の合法性の問題にそらすものです。もしタバコがある実験室で明日発明され、タバコの健康影響などの情報がすべてわかっているとすれば、その販売を許可する政府はひとつもないと言われています。しかしタバコの健康被害は、タバコが世界中に広まって長い年月が経ってから明らかになりました。タバコを非合法化するのは望ましい選択とは言えませんが、宣伝によってタバコ使用を促進を正当化する事はできません。加えて、多くの国でタバコをこどもに販売することを禁止していますが、こどもも大人と同様にタバコCMにさらされています。

2.「広告は喫煙者を増やしていない。喫煙者に銘柄の変更を呼びかけているのだ」
 タバコ産業はタバコの広告は喫煙者を増やす働きをしていない。すでに喫煙している人々に自社のタバコを吸うよう呼びかけているだけだと主張しています。しかし、ある商品の市場がきわめて限られていて広げようがないという希有の例を除けば、広告宣伝は、その商品の売上げを最大限に伸ばしその商品の市場を広げるために行われます。タバコの市場がもうこれ以上広げようがないという状況でないことは確かです。
なぜなら、タバコを吸わない多くの人々、とりわけこどもたちという広大な未開拓市場があり、彼らがタバコCMによって喫煙を始めるようになるからです。国営企業がタバコ製品の生産と販売を独占しているため、ブランド・スイッチングの必要のない国でさえタバコCMが行われているのです。

3.「CMは大人の喫煙者向けであり、こどもをターゲットにしてはいない」
 タバコに手を出すのはほとんど常にこども時代です。20才の時に非喫煙者であれば、将来喫煙者になる危険はほとんどありません。こどもの喫煙者は、その後一生タバコを吸い続けるのでタバコ会社の大事なお客さんなのです。まだタバコに手を出していないが、タバコを吸いたいなと思っているこどもにタバコCMがまったく影響を与えないと思いますか?それとも喫煙者になったばかりのこどもがCMを見てタバコの銘柄を変えるのでしょうか?

4.「CMは喫煙者に『もっと安全な』タバコを吸うよう説得するために行っている」
 タバコCMを禁止している国でフィルターなしタバコの喫煙率が高い国とたばこCMを禁止していない国でフィルター付きタバコの喫煙率が高い国がいくつかあります。これらはタバコ産業がCMは「もっと安全な」タバコを喫煙者に勧めるためにあるという論拠としてしばしば引き合いに出しています。しかし、この主張はまったく信頼できません。なぜなら(インド、メキシコ、パキスタンなど)タバコCMが許可されていてもほとんどの喫煙者がフィルターなしタバコを吸っている国もあるからです。
 出典:Chapman,S. Pushing smoke:tobacco advertising and promotion. Copenhagen,WHO Regional Office for Europe,1988(Smoke-free Europe,No.8)

BOX 9.タバコCM禁止の影響:ノルウェー


 ノルウェーでは、1975年にタバコCMを完全に禁止しました。当時CM禁止反対派はいろいろな理由を持ち出してCM禁止に反対しました。ここでそれらの理由が正当なものだったかどうかを振り返るのも役に立ちましょう。

1.「タバコCM禁止はノルウェーの広告産業を衰退させる」
 事実はこうです。ノルウェーの広告産業の年間売上げ増加率は、タバコCM禁止前8年間(3.6%)よりも禁止後8年間(4.3%)の方が大きくなりました。

2.「タバコ広告を禁止すると国産タバコ会社の国際競争力が落ちる」
 ノルウェーでは大部分手巻きタバコが吸われています。タバコCM禁止前手巻きタバコの95%は国産品が占めていましたが、CM禁止後もこの市場占有率は変わりません。国産工場製造タバコの市場占有率はCM禁止10年前から徐々に下がって約3分の2となりました。CM禁止後も同じ速さで低下を続けました。

3.「ノルウェーのタバコ産業の雇用者が減る」
 ノルウェーのタバコ産業の労働者の減少率は、CM禁止前10年間が年2.7%、禁止後10年間が2.6%でした。

4.「新聞産業の経済状態が悪化する」
 ノルウェーのすべての新聞の広告収入増加率はCM禁止前8年間は年3.9%、禁止後8年間は年5.6%でした。

5.「タバコCM禁止は害の少ないタバコに替える動きを妨げる」
 ノルウェーにおけるタバコのタール量はタバコCMの禁止されていない隣国デンマークと同じ速さで減ってゆきました。そして低タールタバコの比率もデンマークと同じ速さで増えました。

6.「タバコCM禁止は憲法で保証された表現の自由の侵犯だ」
 法律専門家と司法当局はこの主張は肯首できないと結論を出しました。

7.「実際にタバコCM禁止を実行し徹底させることは不可能だ」
 タバコ産業とタバコ小売業者はこの禁止措置をおおむね遵守しました。これに違反した責任者には、法律の充分な説明を行い、法律の遵守措置をとらされました。訴訟に持ち込まれるような案件は発生しなかったのです。警察当局は、タバコCM禁止法は、警察活動の強化をまったく必要としない規制法施行のよい手本と述べています。

8.「タバコCMを禁止してもタバコ消費はほとんど減らないだろう」
 1950〜60年代にノルウェーのタバコ消費量は著しく増え、1970年には横ばいとなり、1975年には減少に転じ、それ以来減少傾向が続いています。調査によれば、1975年、それまで増加を続けていたこどもの喫煙率は減少に転じました。例えば、15才の女子の喫煙率は、1957年に3%、1975年に28%となりましたが、1985年には20%まで下がりました。

出典:Bjartveit K. Fifteen years of comprehensive legislation: results and conclusions. In:The Global war:proceedings of the Seventh World Conference on Tobacco and Health. Perth, Health Department of Western Australia.1990.

6.タバコ規制への反対を予測し、反論の用意をしておく
 大衆的論議の盛んなとき、公衆保健派もタバコ利権派もそれぞれの主張に多くの支持を獲得したいと切望しています。ほとんどの国では、タバコ利権派の主張より、世界保健会議の提案した良識あるタバコ規制対策の方が世論の圧倒的支持を勝ち取るでしょう。もしタバコ利権派が怪しげな戦術を行使したとわかったとき、その戦術の実態を曝露し、広く社会に知らせたなら、彼らの主張は大打撃を受けるでしょう。

7.勝って兜の緒を締めよ
 タバコ規制のための法律が成立したり、タバコ税増税が実施されても、タバコ利権派は、法律の空洞化をはかったり、対策の効果をなくする策動をし続けます。タバコ利権派は、タバコ規制対策を弱めるための活動を決してやめません。したがって公衆保健派もそれらを守るために戦い続けなければなりません。タバコ税増税効果は物価上昇によって消されてしまいます。強力な有害警告表示を義務づけた法律も、その表示が背景に沈んで目立たなくなるよう巧みなレタリングやデザインをされることで効果がなくなる危険があります。タバコ税は物価と所得の増加に見合うよう上げる必要があります。またタバコ産業に都合のよい解釈の余地がなくなるよう有害警告表示の条文を厳密に作る必要もあります。



第4章 タバコ規制活動への支持を獲得するために



 第1章ではタバコとその健康被害に関する世界保健会議決議に触れました。そのなかでとりわけ重要なものは、包括的タバコ規制プログラムの必須要素を明らかにした1986年決議WHA39.14です。しかし、この運動にはどのような部分を参加させるのがよいでしょうか?また、どのような役割をそれぞれの支援協力者に果たしてもらうのがよいでしょうか?今後のタバコ規制活動の方向を定めるために、各国のおかれている状況をつかむにはどのように調査活動を行えばよいでしょうか?本章ではこれらの点についての手引きを記します。

全国的タバコ規制プログラムへの参加者


 公衆保健を最大限に向上させる上で、政府は主役を果たします。この領域では、保健部門がリードしますが、保健部門は政府の他の機関、マスメディア、ボランティア組織、職能専門団体、経済界、産業界との協力を追求する必要があります。以下に、これらの分野の組織が包括的全国的タバコ規制政策に貢献する理想的方法を示します。

政府機関
 効果的なタバコ規制政策を維持発展させるためには、タバコ関連疾患を減らそうとする強い政治的意志と政府の言明が決定的です。もし真の意味で包括的な政策を作ろうとするなら、タバコ規制活動を文字どおりすべての政府機関で展開する必要があります。
 各省庁が包括的タバコ規制に果たすことのできる役割を以下に個別に述べます。これらの提言は国レベルはもちろん州あるいは地方自治体レベルにも適用できます。これはブラジルのような、26の州レベルだけでなく、全国レベルの活動の必要な広い国でとくに当てはまります。ここに紹介した例証はあくまで例であり、各省庁間の責任の分担は国により大きく変わるでしょう。

保健省
 普通、国の機関としての保健省は国民の健康増進と保護の主役であり、従ってタバコ規制の先頭に立つ役割があります。しかしこの役割を他の省庁が担う場合もあります。タバコ規制をリードする役割をどの省が担っていようと、保健省は、タバコ規制活動を推進し支持し調整するための焦点がきちんと明らかにされているように活動する必要があります。

財務(大蔵)省
 財務省は普通税制を決め徴税を行う責任を持っています。前に述べたように、タバコ税を上げると、とりわけ若者のタバコ消費を減らすことができ、しかも国の税収が増えます。タバコに課税して徴収することは、論理学的にはタバコ税制の中で最も容易に行えます。保健省は、財務省に実効のある包括的で健康志向的なタバコ課税政策を行うよう主張する上で重要な役割を持っています。

税関および国税庁
 これらの機関はタバコ規制に関心のある公衆保健従事者と共に仕事をすると、提案されているタバコ課税の新たな方向を学んだり、タバコ消費量の情報を共に利用できるため、得をします。また以下に示す内容でもタバコ規制活動を援助できます。
− タバコの密輸の情報を伝え、公衆保健従事者と共に、偽造不能かつ目立つ納税証を考案するなどの密輸防止対策の開発。
−過去から現在までのタバコの課税レベル・タバコ販売高・タバコ税収入に関する詳しい情報の提供
−保健推進団体に、タバコ産業などがタバコ課税法を合法的に空洞化したり、特定の製品の税金逃れをしているなどの手口を知らせて注意を喚起する。

通商・商業省
 ときどき経済発展のためと称して、通商・産業当局がタバコ産業のためのプラントや工場の建設を促進することがあります。また、タバコ産業に、低利融資、税の減免、土地・建物・施設・機械・備品などの市場価格以下での払い下げなどの優遇措置も行うことがあります。
 これは世界保健会議(WHA39.14)のタバコ規制に関する勧告と世界銀行の現行の経済発展政策の精神に反する行為です。タバコ産業の発展をはかる行為はその国民の健康を脅かすものです。健康が脅威にさらされることは、長期的な社会的経済的発展が脅かされることを意味します。いまや保健部門と経済発展部門の官庁は、タバコ産業の発展を支援して得られる短期の経済的利益は、長期的には健康と経済の発展に大きな損害を与えると認識しなければなりません。
 通商・産業省にとって、タバコの耕作とタバコ製品の製造に替わる別な産業発展をはかる点にあらたなチャンスが訪れています。通商・産業省はタバコの耕作とタバコ製品製造に代わる産業を育成して、WHOと世界銀行の意向に沿った国家方針を実行することが可能となりました。
 小売り産業の円滑な運営を所管する官庁は、保健と教育施設でのタバコ販売禁止をはじめとして、タバコ製品の販売所を制限することができます。また、許認可機関は、こどもにタバコを売らないようにするためにその権限を活用できます。

消費者問題担当官庁
 消費者問題を扱う省庁はタバコ製品の販売促進・宣伝・包装・ラベリングに関する規制要項を施行する事で包括的タバコ規制政策にしばしば貢献します。また、タバコ製品の添加物や有害物質の含有量のテストと情報の公開に関する法的取り決めを通じたタバコ規制の責任を担っています。一方、保健省が消費者問題担当省庁の支援のもとにそのような法的規制の監督を行うこともあります。

農務省
 農務省は、通常農業従事者に対して経済的技術的援助を行います。タバコ耕作農家はしばしばこのようなプログラムの恩恵を受けます。タバコは重要な換金作物とみられることが多いため、このような農家には特別の補助金や技術援助が行われることが多くみられます。タバコ製品製造業と同様に、タバコ栽培も、健康増進と経済発展をはかる世界銀行とWHOの立場から見ると望ましくないとみられています。要請があれば、FAOはタバコに代わる経済活動を開発中の国に対して援助があたえられます。農務省は、タバコ耕作を促進する振興策をやめるべきです。最も包括的なタバコ規制対策を実施しても、タバコ消費は緩やかにしか低下しませんから、農業分野での経済的調整を行う時間は充分あります。ひとりあたりのタバコ消費量が低下しても、人口が増加するために、タバコ消費の絶対量は横ばいか増加するでしょう。真の意味で包括的なタバコ規制政策は、タバコ葉の需要がゆっくりと減ることを認識して、タバコ耕作分野の経済的再調整の援助を行うことができます。しかし、農業従事者への補償計画は、健康増進の目標を実現する目的に厳密に限る必要があります。

外務・貿易担当省
 これらの省庁は、次のことができます。
− タバコとその関連製品の輸出入額のバランスの分析
− タバコ規制政策の提案の国際法上の意義に関する正しいアドバイスを行う
− 近隣諸国との補完的タバコ規制政策策定が進むよう援助する
− 国内のタバコ政策を攻撃する外国タバコ産業の挑戦に対応する
 国産品を外国への売り込みあるいは、輸出入製品の監督を所管する政府機関もまた包括的タバコ規制対策を支援できます。大半の発展途上国はタバコは貿易赤字を生み出します。WHOと世界銀行の勧告に基づく国際通商方針によれば、国産であろうと輸入であろうとすべてのタバコ製品の税金とマーケティング、広告、表示は同一でなければなりません。徐々にタバコ栽培と輸出に対する政府補助金を廃止することも統一された国際的方針として実現可能です。タバコ規制政策はすべての国が実施することが望まれていますから、タバコとその関連製品を輸出商品とすることは、長期的経済見通しから見て望ましくありません。同時に、タバコ耕作への補助金が徐々に減らされるのなら、タバコ耕作からかなり経済的メリットを得ている国でも、見通しうる将来、経済生産が大きく落ち込む心配はありません。
 タバコ工場を作ろうとしている発展途上国の貿易担当省は、紙巻きタバコ製造機、葉タバコなどタバコ製品製造に必要な物資を乏しい外貨を使って購入する事には特別慎重になる必要があります。経済発展のメリットがあるという期待は、その発展によって外貨準備の不足がもたらされる事で短期的に考えても、消されざるを得ません。

司法・法務省
 先に述べたように、法的タバコ規制は国レベルの包括的タバコ規制プログラムに重要な役割をはたします。1990年世界保健会議決議(WHA43.16)は、すべての加盟国に「各々のタバコ規制戦略プランに法的規制などの効果的な手段を盛り込むよう」(付録1参照)求めています。この決議に留意する国では、司法省と保健省の共同作業が法的タバコ規制を計画し、実施し、運用につとめる上で不可欠です。
 司法省は以下の事項も実行可能です。
− 法的タバコ規制に対する攻撃に積極的に反撃すること
− 憲法上の問題および国際協定上の義務に関するアドバイスを行うこと
− タバコ規制のための法律や規則の草案作成や実現を助けること
 大部分の国では、禁煙区域の徹底、広告規制、こどもへのタバコ販売禁止などの法的タバコ規制措置は、政府の査察や管理当局の責任で徹底されます。警察や管理義務のある公的機関もまた、タバコ規制法や密輸禁止法などの法令の徹底を援助できます。

労働・運輸・公的サービス担当部門
 労働省あるいはそれに相当する政府機関は、法律、規則、公定基準、ガイドラインを活用して、室内職場の受動喫煙を効果的に防止する対策をとらなければなりません。受動喫煙被害の防止は、職場、公共交通機関、政府施設、とりわけ一般市民に対するサービスを行う施設において徹底されなければなりません。政府機関が禁煙になると、民間施設も後を追って自主的に禁煙になる場合が多いことがこれまでの各国の例から明らかになっています。
 運輸担当官庁は、公共交通機関のタバコ広告を禁止し、公的交通機関の禁煙を推進できる立場にあります。国際路線については、相互あるいは集団的合意を目指す交渉が必要になります。

教育省
 教育行政を除いた包括的タバコ規制政策は完璧とは言えません。保健省と教育省は、以下のことが必要となります。
− こども達にタバコ使用の危険性とタバコのない生活の素晴らしさを学校教育の期間を通して繰り返し効果的に教えること。
−生徒も教職員も禁煙としすべての学校を禁煙として、こども達を受動喫煙被害から守り、こども達に禁煙のよい手本を示す。
−学校教育におけるタバコ関連問題をどう教えるかも含めた教師の研修と実習を行う。
−(医学・歯学・看護学などの)健康科学を教える学校のカリキュラムに、タバコと健康、タバコ依存および禁煙指導技術を入れる、禁煙運動に対する医療専門家の支援活動を勧める。

環境行政
 この分野では、以下の内容について包括的タバコ規制の支援ができます。
・ 森林喪失、タバコ工場における有毒物使用、葉タバコの乾燥処理のための薪の過剰使用、紙巻きタバコ工場における紙の過剰使用、過剰な廃棄物排出、農薬や化学肥料の過剰使用、タバコによる森林や建物の火災から環境を守る。
・ 環境行政官庁に権限が与えれている国では、その権限のおよぶ施設における受動喫煙被害の防止。

国防省
 軍隊には多くの若者がいます。軍隊はその構成員に健康とフィットネスを奨励して、以下に示すようなタバコのない生活を奨励する方針を実行して長期的な保健コストをできるだけ減らすことによって包括的タバコ規制政策に貢献することができます。
− すべての室内環境における受動喫煙の防止措置をとる。
− 軍隊内で売るタバコの価格をまわりの一般小売り店と同じかそれ以上として、タバコ消費量と密売が減る一石二鳥の対策をとる。

文化・スポーツ担当官庁
 これらの官庁は以下を通じて包括的タバコ規制対策を推進できます。
− タバコ税の一部を健康なライフスタイルを推進する文化・スポーツ活動の後援にあてる。
− 後援しているイベントを禁煙としいかなる形のタバコの売り込み活動も禁止する。
− スポーツ選手のタバコ製品の販売促進活動への関与を禁止する。
− スポーツや文化分野のスターをロールモデルとして起用し、タバコを吸わない健康なライフスタイルを広める。

宗教担当官庁
 宗教担当官庁や宗教団体は、以下のようなやり方でタバコ規制政策を支援できます。
− 宗教行事の際、タバコ規制活動への支持を訴えてもらう。
− 礼拝所を禁煙とする。
− 宗教指導者に禁煙のロールモデルの役割を果たしてもらう。

他の政府組織
 地方自治体の方が効果的に実行できるタバコ規制対策もあります。それには以下のものがあります。
− 地方自治体の管理下にある施設の受動喫煙防止措置。
− こどもへのタバコ販売の禁止措置の強化、タバコ製品小売り店の制限と規制強化
− タバコに関する健康教育の強化
− 禁煙講習の実施
− タバコ広告の規制
 地方自治体がタバコ規制の活動を行っている場合、国の保健当局は支援と激励を行う必要があります。地方自治体はモデルとなるタバコ規制条例を制定できます。その成果は、県(州)あるいは国レベルのタバコ規制に取り入れられます。

マスメディア
 マスメディアはタバコの販売促進に利用される一方、タバコ規制活動の支援を行うこともできます。看板、新聞、雑誌、ラジオ、テレビはタバコの健康被害についての教育的メッセージを広めたり、タバコ規制プログラムの実施が進展していることを知らせる上で重要な手段です(BOX-10参照)。
 タバコ広告の法的禁止措置がなくとも、健康擁護勢力は新聞社にタバコ広告の禁止を支持する編集方針をとることを説得できます。この戦略はいくつかの国で成功しています。多くの場合、新聞社のタバコ広告の禁止を支持する編集方針の確立は、(健康団体からの圧力に加えて健康と倫理の基準にもとづく)タバコ広告の自発的拒否と連動します。かなり前から自発的にタバコ広告を拒否しているよく読まれている国際誌がいくつかあります。
 しかしタバコ広告反対の社説を発表したり、タバコ広告掲載拒否を通じてタバコ規制運動への支持を表明したなら、大きく損をすると間違って思い込んでいるメディアもあります。調査の結果そのようなことはないことが証明されているのですが。
 マスメディアは次のことができます。
− タバコCMを拒否できる。
− タバコ使用の危険性についての教育メッセージを公共サービスとして無料でメディアにのせることができる。
 マスメディアの協力を得る機会を積極的に追求する必要があります。

BOX 10.タバコの有害性の情報を広めた新聞:パプア・ニューギニア


 パプア・ニューギニアに駐在していたWHOスタッフの提案で、地方紙のひとつが製薬会社の後援を受けて定期的な健康記事の付録を発行し始めました。その付録にはタバコ使用の危険に関する特別記事が必ず入れられました。広告収入に余裕があったため、この付録は広告なしバージョンとして英語と現地語の両方で発行されました。そのおかげで、政府は、喜んで地方住民のために活用してもらうため国内の保健従事者にそれを配りました。このように、マスメデイァと保健従事者の共同によって、WHO、政府マスメディアにまったく費用をかけずに、タバコ使用の危険性に関する情報を全国に届けることができました。


医療専門家
 医療専門家からのアドバイスは、禁煙に挑戦して成功するかどうかを左右する大きなきっかけのひとつです。医療専門家による手短で首尾一貫した禁煙のアドバイスは、タバコ使用を減らす最大の戦略であることが証明されています。しかしながら、保健従事者が必ず禁煙を指導する訳でもなく、したとしても申し訳程度の内容であることもすくなくありません。この問題は、保健専門家自身の喫煙率の高いことと同時に存在することがしばしばです。このような状況では、禁煙指導が実行される可能性はほとんどありません。当たり前のことですが、患者が医療従事者の喫煙を目の当たりにしているなら、いくらタバコが健康に悪いと指導されても禁煙するはずがありません。

医師
 先進国のほとんどの国民は毎年少なくとも一回は医療機関を受診します。これは効果的な禁煙カウンセリングの絶好の機会です。医師と直接会う機会のもっと少ない国でさえ、健康上の疑問に対する医師の意見は尊重されています。しかし、医師の喫煙率が一般住民と同じかそれを上回る国も多いのです。
 このような状況を変えるために、European Medical Association:Smoking or Health(EMASH)、米国Doctors Ought to Care(DOC)、Physicians for a Smoke-free Canada(PSC)などの団体が以下に示す活動を行っています。
−タバコの健康影響をしっかりと医師に認識させ医師の喫煙を減らす取り組みを行う。
−効果的な禁煙指導法を広めて患者の禁煙を助ける。
−全国的タバコ規制対策の前進を支援する。
 世界医師会(World Medical Association)、International Doctors against Tobacco(IDAT)などの国際医師組織もまたタバコ規制にカギとなる役割を果たすことができます。BOX 11に、医療専門家に自身の禁煙と周りの同僚に対する禁煙のよびかけを行うよう呼びかけたInternational Society and Federation of Cardiologyの決議について紹介しました。

BOX 11.医師と喫煙に関する決議

International Society and Federation of Cardiology(国際心臓病学会連合)

 本連合は、会員たる諸心臓病学会および諸財団の協力のもとに、全世界の心臓病の予防に献身してきた。
 タバコ喫煙は世界中で心疾患による死亡と障害をもたらす主要な健康危険因子であることが明らかにされてきた。
 医師、とりわけ心臓病専門医は、タバコの健康への悪影響を認識し、患者と一般市民のロールモデルとして行動し、行政機関と共にタバコ使用に反対する運動の支援を行う上で理想的な立場にある。
 喫煙を減らすことにより、病気の発生の予防と公衆保健の向上が大きく期待できる。
 以上の認識から、以下を決議するものである。
 本連合は、すべての会員たる諸学会および諸財団が、その構成員にたいして、構成員自身および同僚、医学生を含むすべての医療専門家に禁煙を勧めること、禁煙の諸政策を推進すること、医療施設と医療関係の会合を禁煙にすることを開始あるいはいっそう強化するよう強く勧告する。(国際心臓病学会連合執行委員会で採択1995.9.16)

看護婦
 看護婦は医療従事者の最大の部分を占めており、彼らのカウンセリングと手本としての行動は患者の喫煙行動に大きな影響を与えます。しかし、医師の喫煙率が低い国であっても、看護婦の喫煙率は一般市民と同じかそれを上回る国もあります。看護婦は非喫煙の積極的なロールモデルとしてふるまい、禁煙相談も含むタバコに関する患者のカウンセリングを行うことができます。

薬剤師
 タバコ製品が薬局で売られている国では、薬剤師の専門団体が積極的にこの状態をなくそうとがんばっています。しかし、成功はまだ一部にとどまっており、薬局からタバコ製品を追放するには引き続き努力が必要です。禁煙を助ける薬物(訳注:ニコチン製剤)の販売との関連で、薬剤師は客に禁煙のための薬の使用法を教えたり、禁煙相談にのるという重要な役割を果たすことができます。

歯科医およびその他の医療従事者
 歯科医は、タバコ使用による口腔疾患をはじめとするさまざま健康被害を直接見る立場にあるため、タバコ規制には強い関心を持っています。歯科医は治療よりも予防が大事だという立場をとり、特に若い患者に対して、タバコを吸わないこと、吸っていたならやめるようにアドバイスできる立場にあります。
 可能なところでは、医療専門団体が協力して、包括的タバコ対策の確立を要求する運動をおこしましょう。タバコ規制を目標にさまざまな医学医療団体が自らの団体の中および外部の自主的組織と協力して活動したなら、地域社会での影響力と政治的活動力は大きく増すでしょう。

他の自主的団体と専門家団体
 多くの国で、サービスクラブ、若者団体、消費者団体、環境団体、女性団体、宗教団体などの自主的組織が、包括的全国的タバコ規制プログラムの前進に協力してきました。例えば、世界禁煙デー行事の参加と運営に若者の組織が協力した例があります。タバコ規制活動に先進的に参加してきた宗教団体もあります。とりわけ、キリスト教の一宗派であるSeventh-Day Adventistsは多くの国で禁煙のための講習会を開いてきました。マレーシアでは、Islamic Medical Association が積極的にタバコ規制活動をしています。喫煙はシーク教などでは強く禁止されています。

医学医療団体
 全国的な心臓、呼吸器、ガンなどの学会およびドラッグ追放運動団体や禁煙運動団体は、包括的全国的タバコ規制プログラムの発展にカギとなる役割を果たします。これらの団体が非常に多くのメンバーや支援者を組織していて、政府と協力して、学校、保健センターなどの地域施設で健康教育や禁煙プログラムを実施している国もいくつかあります。これらの団体が国際的な協力活動を行う場合もあります。
 医学医療団体は以下に示すような重要な役割を果たします。
− タバコと健康に関する情報を政策決定責任者やマスメディアに伝える。
− 政府にタバコ規制政策とプログラムを改善するよう働きかける。
− 会社や工場を禁煙にするよう支持激励する。
− マスメディアなどに、社会のあらゆる層が包括的タバコ規制プログラムの発展を支持するよう呼びかける。

教育および福祉専門家
 教育者や福祉介護の専門家は、タバコを吸わないことが常識という考えを身をもって示すことができます。これらの団体は全国的タバコ規制政策の全般的強化を求める他のグループに援助を行えます。教師は、学校の禁煙化と、より効果的で頻繁な学校をベースとした喫煙予防プログラムの実行を支援できる立場にあります。

弁護士・法律家
 法律は効果的なタバコ規制に不可欠の要素です。法律家は法律の変革を要求し支援し、法律や条項の草案を作り、タバコ産業の主張に反論し、現存する法律の施行状況をチェックできます。彼らはすでに存在する(消費者保護あるいは商品の包装や広告に関する)一般法をタバコ製品に適用させる活動を援助できます。ここ数年、弁護士は、反タバコ勢力として、合憲性あるいは国際通商合意という複雑な法律的論建てを用いて公衆の健康を守る対策をかち取るなど、その役割が大きくなっています。地方の法律専門家あるいは国際機関を通じて法律専門家を活用したなら、(タバコ産業から:訳者追加)持ち出された問題をすぐに解決でき、健康を守る対策を遅らせたり、弱めたり、中止することを防げるようになってきました。
 いくつかの国では、タバコ産業に対する訴訟が大きな注目を集めています。これは、そうした訴訟の結果公表された成果から見ても、情報から見ても、大きな収穫をもたらし得るタバコ規制活動の重要な発展です。しかし、タバコ産業相手の訴訟は、費用も時間もかかる大仕事です。ほとんどの国にとっては、法律関係の人材と資金を立法活動、禁煙区域やタバコCM禁止に関する訴訟、または現在ある法律の適用問題に絞ってそそぎ込む方がよいのではないかと考えられます。

企業、工場および労働組合
 職場における受動喫煙問題は、商工業界のすべての分野のかかわる問題であり、その解決もそれらの協力によって可能です。内閣は受動喫煙からの保護を政令を制定できます。しかしこれらが実施されるのを待つより、会社や工場では独自の喫煙対策を進めるべきです。労働組合は、労働者の健康と安全を守るために活動してきたその歴史を持っており、この分野では当然の役割があります。これらの政策は企業の利益を少しも損なわずに実行できます。そうなると、政府は会社や工場でのタバコ規制の経験を活用できる利益を受けます。そして政府の規制措置はひとたび実施されたなら、その適用を受ける人々の実状によりよく合うものとなるでしょう。決定的なことに、最近のいくつかの法理論が指摘したことですが、雇用主が自分の会社において受動喫煙被害を充分に防止する対策をとらなかったために、従業員がタバコの煙によって健康被害を受けたり苦しんだ場合、雇用主に賠償責任が生じ、裁判所は賠償命令を出すことができるのです。
 禁煙のための治療薬開発などを行っている製薬会社といった産業界もタバコ規制対策に支援をするでしょう。広い産業分野にわたって、職場の禁煙化がもたらすメリットの大きさを認識して、従業員の禁煙の援助をするようになってきました。多くの国の生命保険会社が、保険統計数理学的計算に基づき、非喫煙者の保険料を大きく引き下げるようになっています。

全国的タバコ規制プログラムへの反対


 これまでに述べた政策を実行しようとすれば、タバコ産業とそれから直接間接に財政的利益を受けている仲間からの反対を受けることは必至です。タバコ製造産業は、タバコ耕作農家、パッケージ業者、広告会社、タバコCM費をもらっているマスメディア、問屋、小売業者などの下請け業者と顧客に多くの支援者を抱えています。例えば、南アジアでは、この同盟関係が(インドで最も流行しているタバコ、ビディを包むための)temburniや(インドのさまざまな種類の噛みタバコに使われる)ビンロウ樹の実と葉の栽培業者と加工業者まで及んでいます。
 タバコ会社と一緒に仕事をする業者だけでなく、タバコ会社の多角経営化のために買収された会社や、タバコ会社から後援資金をもらって活動を続けられるスポーツ・文化組織など、タバコ会社に財政的に依存しているものはたくさんいます。
 包括的タバコ規制戦略への反対に打ち勝つために、世界中で成功したテクニックと主張を活用することができます。このような情報はしばしば簡単に手に入れることもできます。現在手中にある情報が正しいかどうかを確かめることも重要です。タバコ利権派からの情報はその真実性、裏づけとなる論文の質、起こり得るバイアスなどをよく検討する必要があります。タバコ利権派が、保健擁護派の出した情報をチェックして非難することもあります。したがって、資料の準備には正確を期し、科学的健全さと証拠をしっかりとそろえることが何よりも大事です。

タバコはすべての人の問題


 タバコを吸っている人は多く、タバコによる病気のおきる危険のある人も多いのです。自分は吸わなくとも、家族・友人・同僚にタバコを吸う人がいたなら、思いがけず早い時期にタバコ病で、友人や肉親を失う危険があります。仕事に熟練した経験深い幾百万の人々が、防ごうと思えば防げた理由で働き盛りの中年期に早死にすることは国境をこえた大きな損失です。非喫煙者の多くは受動喫煙による健康被害を受けており、タバコ関連疾患で死ぬおそれも高くなっています。このような幅広く深刻な問題は、この社会のさまざまな分野の人々を巻き込んだ、幅広い協力による解決行動が必要とされているのです。

結論:キーポイント


 包括的タバコ規制政策とプログラムの実現に向けて支持をかち取ることが必要な団体や機関を以下に示します。
− 政府の省庁
− その他のレベルの政府機関
− マスメディア
− 保健団体と保健専門家
− 自主的組織
− 法律家・教育家・宗教指導者などの専門家



第5章 タバコ規制活動の支えとなる情報



 タバコ規制のための政策と諸活動を支えるさまざま分野からの情報はすでに充分存在します。その国あるいは地域毎のデータが充分集まらない場合でも、国際的なデータを根拠として政策を実現するための対策の実行は可能です。例えば、20カ国で欠陥車であると判定された車を、21番目の国で本当に欠陥車かどうか詳しく調べ直すことが必要なわけがありません。受動喫煙被害なくすために対策をいっそう強めるといった政策転換の正当性を証明するに足る充分なデータはすでに存在しているのです。しかし、その国あるいは地域固有の情報のあった方がタバコ規制政策の強化の主張に役立つ場合もあります。例えば、(第8章で述べるような)国あるいは地域毎の喫煙率調査あるいは(第9章で述べるような)現在の喫煙が引き起こす将来のタバコ病死者数は、対策を実施する上で重要です。
 多くの国では、政策調査、タバコ規制支持にむけた前進と論議に生気を与える自国のタバコの現状に関する情報が明らかにされています。財務省にきけばすぐわかるように、数十年にわたる課税データのある国があるとすれば、それをタバコ税増税の根拠として使うことができます。タバコ消費量、喫煙率、タバコ関連死亡者数と障害者数、タバコと健康の問題に関する知識・態度・意見、タバコ規制政策に賛成あるいは反対の意見を持つ団体や組織に関する情報などはきちんと保存しておくことが必要です。またタバコ規制に関連する社会・経済・政治的情報も採っておくことが大事です。
 タバコ産業から入手できる情報もあるでしょうが、その内容をよく吟味してから受け取ることが必要です。事実関係に関する情報は(タバコ産業から始められたような)タバコ規制に反対する論争を討ち負かす際に役に立ちます。これは引き続く公開論争の時に役立ちます。情報を見失わないよう、情報の記録、保存、参照、修正が行いやすいよう充分気配りして管理システムを作ることが重要です。
 タバコと健康の情報管理システムにはさまざまなものがあります。個人や小さな民間団体が作っているただ単にタバコと健康に関する情報を集めただけのものから、洗練された技術によって長年の情報を集めたものまでいろいろです。WHOには全世界をカバーした健康データベースを維持管理しています。またTechnical Information Center of the United States Office on Smoking and Health(Technical Information Center, Office on Smoking and Health, National Centers for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Centers for Disease Control, 1600 Clifton Road, Rhodes Building, MS K-12, Atlanta, Georgia 30333, USA. Tel:1 404 488 5708)にも質量ともに抜きん出た情報集積システムがあります。このオフィスは喫煙と健康に関する世界で最も完全な文献目録を持っています。ここからの情報提供は誰にでも無料で行われます。タバコと健康に関するこのように膨大な情報収集をどうしても必要と考える人はほとんどいないでしょうが、それぞれの国毎に、簡単にアクセスできる、タバコとその健康影響に関するカギとなる国際的・国内的文献資料の貯蔵センターがあると便利だと考えられます。
 望ましいのは、タバコ災害のために大きな被害をこうむっている人口階層、その国のタバコ産業の現況とはたしている経済的役割、すでに実施されたあるいは現在実施されつつあるタバコ規制政策への反応などに関する最小限のデータと情報を集積しておくことです。多くの国のタバコ規制対策の経験に照らし合わせて、WHOは健康政策プロセスを効果的に支援するうえでモニターする必要のある指標のリストを準備しました。次の6項目です。
− 社会人口動態学的指標
− タバコの生産・取引、タバコ産業
− タバコ消費量
− 喫煙率
− タバコ病死亡・障害者数
− タバコ規制のための対策と組織

 各々の項目毎に必要とされる指標の詳しいリストは付録4に示しました。
 公式統計が入手できないあるいは不完全でも、情報を入手できるルートは他にたくさんあります。例えば、タバコ産業の出す年刊、季刊などの報告書からも多くのことがわかります。(ビジネスニュースを含む)ニュース報道やタバコ取引報道誌に加えて、商業的な世論、media placement、産業活動の調査もまた重要な情報源です。インターネットやタバコ規制活動を行っている組織の運営するコンピュータネットワーク(例:SCARCNET:Advocacy Institute,Washington,DC,USA; Globalink:International Union Against Cancer,Geneva,Switzerland)からも重要な情報とアドバイスを手にいれることができます。国連統計事務所、WHO、国連通商と開発会議(UNCTAD)、FAO、経済協力開発機構(OECD)、欧州共同体(EU)などの国際組織からも役に立つ国際比較統計資料が入手できます。社会、経済、政治分野のデータの入手先についてそれぞれ簡単に触れます。

経済的情報


 政府の多くは、タバコ産業の状態に関する経済統計を集め公表します。この情報が公表されない場合でも、政府の担当部局、中央統計事務所あるいは財政、歳入、農業工業、消費者問題あるいは通信を扱う省庁から入手できます。

タバコ産業
 タバコ規制政策はタバコ産業に影響を与えるためこの産業の構造の理解が不可欠です。政府はこの情報をある程度集めています。この他の情報源としては、タバコ産業からの直接入手、タバコ産業の株式市場による分析、民間マーケットモニター機関(マスメディア順位付け機関など)などさまざまな国際的データ源などがあります。
 タバコ使用を推進する非営利機関のある国もあります。このカテゴリーには、タバコ産業協会、葉タバコ耕作者協会、喫煙者の自由を守る会およびさまざまな「広告の自由」を守る組織がはいります。これらの組織は普通財政的にタバコ産業としっかり結びついています。これらの多くはタバコを規制する公衆保健派の活動を遅らせたりやめさせたりすることに献身するため、タバコ規制を前進させる公衆保健政策の提案を守り抜く課題を首尾よく進める上で、これらの団体のいかなる動静もチェックしておくことが必要です。
 国内にタバコ栽培産業の存在する国では、その産業の経営収入、従事農民数、農業生産に占める割合、総輸出額に占めるタバコの割合、全タバコ生産額の国内消費と輸出に占める割合、葉タバコ生産のこれまでの消長と将来の見通しについて充分に資料を集める必要があります。
 分析にあたっては、完成したタバコ製品の製造と取引がわかるようにする必要があります。またタバコ産業の構造と多国籍タバコ企業がタバコの生産と貿易に果たす役割も分析対象とする必要があります。工場数、タバコ加工・流通販売・小売り店の従業員数、タバコ分野就業人員の全集業人員に占める割合、タバコ生産・総売上げ・小売り・輸出入のそれぞれの総額などにも解析を広げる必要があります。

国家経済におけるタバコの位置
 一国の経済におけるタバコ産業の特質を解明することは大事です。外貨保有高の少ないあるいは不足している発展途上国では、葉タバコや紙巻きタバコ製造機輸入費などその国のタバコ製品生産のために使われた外貨の金額を明らかにすることがきわめて大切です。またタバコ産業に対する政府の補助だけでなく、タバコ耕作と加工処理業に対する政府補助の内訳も明らかにする必要があります。
 しばしば、タバコ産業が国家経済におけるタバコの経済的地位を分析して発表することがあります。タバコ産業は、タバコ産業で働く者の数をフルタイム雇用労働者数に換算して発表します。これは、以下に上げる理由でタバコ産業での雇用者数を何倍も上回る数字として発表されることが多くあります。
−タバコ産業の雇用が間接的に作りだした雇用も勘定に入れる(例:タバコ産業の雇用者がタバコ産業からもらった報酬でを物やサービス買うからその物やサービスを提供する産業の一部もタバコ産業の生みだした雇用とする)。
 −タバコ産業の従業員の家族も全員がタバコと関連の産業雇用者として勘定する。
 −タバコの他にもさまざま作物を作る農業者をタバコ専業農家として勘定する。
 −パートタイムあるいは一時的雇用者をフルタイム雇用者として勘定する。
 タバコ産業労働者がタバコ産業に雇用されないとしても、彼らは他の生産的な経済活動に雇用されるから、所得と雇用が同じように生み出されます。ですから、タバコがあろうとなかろうと、最終的な経済状態はよくも悪くもならないと言う方が公平かも知れません。事実いくつかの研究では、タバコ消費が減ると、経済全体は豊かになるだろうとの結論を出しています。

消費者に対する相対的コスト
 消費者のタバコへの支出も解明する必要があります。これはさまざまな方法でできます。例えば総消費支出に対する比率、ひとりあたりの国民総生産に対する比率、喫煙者ひとりあたりの国民総生産に対する割合、20本入りタバコ一箱の価格の収入を得るために必要な労働時間(分)数などの指標があります。その地域で最も売れているブランドのタバコ一箱の値段とその地域の法定最低賃金がわかれば、一箱を買うために必要な労働時間が計算できます。例えば、コート・ジボアールでは毎日タバコ一箱を買うためには2時間半の労働が必要なのです。また、タバコの値段を生活必需品や手に入れたい消費財の値段と比べるのもよいでしょう。

タバコの全経済コスト
 タバコが経済に与える悪影響は将来のキャンペーン計画の役に立ちます。先進国ではこの点に関して多くの分析が行われています。表1にカナダにおけるタバコの経済的影響のまとめを示しました。中国で行われたような、タバコの経済影響についての部分的な分析でも、政策選択を行う上できわめて有用な情報となります。

表1.タバコ使用の経済コスト:カナダ,1989年(単位10億カナダドル)
コストの種類 35-64才 65才+ 合計
健康コスト 直接ケア費 1.3 0.6 1.9
早死 4.1 2.7 6.8
後遺障害 0.6 0.1 0.7
周産期死亡     0.1
建造物および森林火災     0.1
タバコの購買支出 タバコ税     5.5
製造・流通マージン     2.7
合計 17.8
出典:Tobacco or Health;status in the Americas. Washington.DC.Pan American Health Organization,1992(Science Publication,No.563). 発行者の了解を得て掲載。

 喫煙によるヘルスケアコストの算定にはいくつかの方法があります。Riceら(Rice D et al.The economic cost of the health effects of smoking,1984.Milbank Quarterly,1986,64(4):489-547)は、寄与リスク法を用いて(タバコ関連疾患による)直接コストと(労働損失・早死に・housekeeping serviceの喪失による)間接コストを推計しました。米国では、大規模な全国調査から得られたガン、心臓病、呼吸器疾患の医療ケア利用報告をもとに計算をしています。喫煙が喫煙者にもたらす死亡の相対リスクを計算する場合と同様、生涯非喫煙者と比較した喫煙者・禁煙者の相対的医療ケア利用度を、喫煙率を組み合わせて、米国の全保健ケアコストに占める喫煙のコストの比率をコストの種類別に求め、国全体の喫煙による直接コストの推計値を試算しました。喫煙の占める比率は労働喪失日数とhousekeeping serviceの喪失日数についても計算され、喫煙による間接的障害コストの推計値が求められました。またある年令で喫煙関連疾患のために早死にした男性あるいは女性の年間推定損失額を求め、その合計によって間接的死亡コストを求めました。1980年には、これらの損失の総計は650億米ドルにのぼり、うち240億ドルは直接医療ケア費用によるものでした。
 Riceらの方法の変法によって他の国々のタバコ使用のコストの推定が行われています。この寄与リスク法は、喫煙者と非喫煙者の間に喫煙以外の危険因子の違い、医療機関と医療制度へのアクセス・健康状態・医療ケアの利用パターンの違いがないという前提で行われています。この前提のもとで分析する必要があることは明白です。
 1994年カリフォルニア州立大学バークレー校の研究者たちは、喫煙による超過医療コストをNational Medical Expediture Survey U(NMES−U:第2次全国医療支出調査)のデータを用いてより精密に推計しました。この調査では、35000人の市民の詳しい医療機関利用歴を1987年から1988年の間に4回調べました。さらに医療機関利用コストのデータは直接医療機関から入手し、個人のリスクファクターの有無は、別に行われた調査(Miller LS et al. Medical care expenditures attributable to cigarette smoking: methodology,descriptive statistics,parameter,and expenditure estimates. Berkeley, University of California, 1994(Center for Family and Community Health Monograph))を通じて対象者から入手しました。この結果、医療機関の利用状況、個人の人口統計学的情報、リスクファクターの有無、コスト額を平均値として求めることができました(Duan W et al. A comparison of alternative models for the demand for medical care. Journal of business and economic statistics,1983,1:115-126)。このモデルは、現在のところ喫煙の経済的コストを推定する最も精度の高い方法となっています。1993年の米国の喫煙による経済コストは500億ドルとなりました(Medical care expenditures attributable to cigarette smoking, United States,1993. Morbidity and mortality weekly report,1994,43(26):469-472)。このコストの推計値は医療費の急速な膨張を反映していますが、タバコによる火災死亡・傷害、母親や妊婦の喫煙が原因となった周産期疾患、それに早死にや障害がもたらした間接的コストは含まれていません。したがって、この推定値は喫煙の経済コストを最もひかえめに見積もったものです。またこのモデルによりそれまでの推計方法に対するさまざまな異論や反論を克服する事ができました。
 この方法の最も重要な内容は、健康リスク行動、健康状態、費用および医療ケア利用パターンを結びつけた調査を行うことができた点です。多くの発展途上国でこれを行うことは不可能でしょう。しかし(多くの国で行われている経済状態と経済能力を調べる)家計支出調査に喫煙習慣をたずねる項目を入れると、同じような経済的調査ができる場合もあります。この場合、データを手に入れることが第一目的となります。喫煙がその国のヘルスケアシステムに与える経済的影響を正確に推定する必要がある場合に大きく複雑な経済モデルを用いることが必要なのです。
 タバコのコストがすべて比較的たやすく計算できるわけではありません。また計算さえできないこともあります。でもそうだからといってタバコ対策に活用できないということではありません。例えば有名な芸術家、政治家、経済人がタバコ病死をしたというニュースはタバコ使用による損害を如実に示す世間の注目を集める出来事です。これは両親が生計費をタバコ代に消費したりタバコ病で早死にしたために残された家族の生活保障をするためのコスト、あるいはこどもの学力不足がもたらすコストにも言えます。タバコ使用による真の意味で重大なコストは、金で測られるものではなく、防ごうと思えば防げたはずの悲劇的な健康と人生の喪失により測られるものです。

タバコ広告
 (制限があっても)広告が許されている所では、タバコ会社は葉タバコの購入費用をはるかに上回るタバコ会社の支出費目としては最大の資金を投じてタバコの広告と販売促進を行います。タバコ規制派は、その国や地域で一番盛んに行われているタバコCM・販売促進の形態、銘柄、タール・ニコチン量、売り込む対象集団に関する包括的情報を集める必要があります。
 タバコ規制派は、タバコ産業が自主的にあるいは政府の間で公式、非公式に結ばれた自主規制の状況とともに、タバコの広告と販売促進活動を規制する現行のあらゆる法律や規則の性格、規制範囲、有効性を確認する必要があります。
 タバコの広告と販売促進活動によって利益を受けている企業群や連合組織の内訳もしっかり確認する必要があります。それらは、屋外広告の中小企業から、市バスなどの車内広告料金をもらっている大都市の公営企業当局、タバコ産業から運営資金をもらっている劇場やダンスの団体まで広い範囲にわたります。タバコの広告と販売促進活動にかかわる人々の総数を推定すると、タバコ産業が広告分野に持つ影響力の大きさを認識する助けになります。

国レベルのタバコ規制方針
 多くの国々で、政府によるなんらかのタバコ規制の動きがしっかりした足どりで開始されています。世界の約半数の国では、タバコ規制の法律や規則がなんらかの形で存在します。また大多数の国で反タバコ運動がおきています。どのような活動が行われているにしても、それらの活動の現状に対する正しい認識がなければ、タバコ規制方針がより包括的なものになり難いということをしっかり心に留める必要があります。政府においては、現在なされている禁煙のサポート活動の他に、タバコに関するヘルスプロモーション活動と健康教育活動の性格、広がり、有効性をしっかり認識しておくことが最も大事です。
 その国全体の方針のレビューは以下に示す論点に沿って行うのがよいでしょう。
▲<そのタバコ製品の入手困難性はその製品の使用がもたらす被害の大きさに見合っておいるか?>安全許容量がなくその製品使用者の半数を殺す製品を安く、医療施設や自動販売機で、あるいはこども達に売るべきでないのは当たり前です。
▲<タバコ製品の現在および将来の使用者がその製品の使用がもたらす結果に関する正しい情報を十分知らされた上で使用するかどうかを決める選択の自由を、法律が保障するようになっているか?>タバコCMやしゃれたパッケージなど消費者の判断を誤らせるイメージとメッセージを送ることを禁止する必要があります。タバコのパッケージの内外とタバコ小売り店頭に、詳しい有害警告表示を目立つように表示させることが必要です。タバコ製品に含まれるすべての有毒物質と添加物の完全な情報公開も必要です。一般市民にタバコ産業の役割を教える働きかけも含め、適切な公衆衛生教育を施すことを義務化し、タバコ製品使用をやめたい者に対するサポートの提供も保証することが必要です。
▲<タバコ製品の使用者以外の者が健康被害を受けないよう法的保護がなされているか?>公共施設、職場、公共交通機関での受動喫煙被害の効果的防止を意味します。
▲<監督当局がタバコ製品の改変を命令できる法的権限を持っているか?>タバコ以外のほとんどすべての商品については、政府に強力な規制権限があります。タバコ製品の製造に関する規制と商品として販売許可を受けるための制限をきびしくすることで、将来のタバコ依存症と健康被害を大きく減らすことができます。

 医療機関、交通機関、公共施設、職場における受動喫煙防止対策は徐々に進み、大小の成功をかち取りつつあります。これらの対策の多くは、国、地域、地方自治体レベルの法律、規則、命令、あるいは自主的申し合わせにより実現しています。現在の受動喫煙対策の広がりと内容を記録して分析することは、国レベルのタバコ規制方針をさらに前進の端緒となる報告作りとなります。
 こどもにタバコを売ったり与えることを禁止する法律や規則の現状についても、チェックする必要があります。よくあることですが法律があっても有効に機能していない場合、このことも記録しておく必要があります。

税金・価格および消費量
 タバコ税は包括的タバコ規制の核心部分です。課税方針はふつう財務省で作られます。実際の徴税は徴税担当官庁が行います。州制度をとる国では、二重にも三重にもタバコ税が課税されます。タバコ税の現状がどうあろうと、現在のタバコ課税の性格と範囲、また財源としての相対的重要性をよく理解することがタバコ規制方針を包括的にする上で不可欠です。
 タバコの(物価上昇率を勘案した)実質価格が10%上がると、消費低下率はそれより小さ2〜8%の間にとどまります。こどもや低収入の階層ではタバコの価格が10%上がると、消費は10%以上減ります。この関係が公衆保健にとってどういう意味があるかというと、タバコ税値上げによってタバコの価格を上げると、タバコ消費は減るが、政府のタバコ税収入は増えるということです。この現象はタバコ規制戦略を構築するために活用できます。

世論調査
 第8章にタバコ消費に関する知識、態度、行動についての世論調査を行う際のさまざまなタバコ規制対策の選択肢の中から適当と考えるものを選んでもらうための質問を紹介しています。そのような世論調査を通じて、さまざまなタバコ規制対策に関する世論をつかみ記録しておくことは、タバコ規制方針の包括性を高め、政府の提案行動を支える上で不可欠です。大半の世論調査では、大多数の市民が世界保健会議が勧告した包括的タバコ規制方針のすべてを支持し、いくつかの対策については、喫煙者でさえも支持していることが明らかになっています。

国別プロフィール
 国別プロフィールは多くの目的に利用できます。タバコとその健康影響に関する簡単なまとめ(付録5にインドネシアの例を引いてあります:出典:WHO's Tobacco or health: a global status report)からもっと詳しい現状の説明まで、さまざまなレベルの資料が必要となります。
 いかなる国のタバコとその健康影響に関する議論でもきかれる質問は「わが国のタバコの健康被害の状況は、他の国と比べてどうなのか?」ということです。他の国々の情報はこうした質問への適切な答を行う助けになるでしょう。
 上に述べたWHOの出版物にくわえ、季刊のInternational digest of health legislationは、国際的タバコ規制計画を作り上げる基礎となる重要な情報源となっています。WHOの友好組織であるInternational Agency for Research on CancerあるいはUICCなどの国際機関もまた国際的タバコ規制のための有力な情報源です。

結論:キーポイント
 最も効果的にタバコ規制方針の強化をサポートするには、それぞれの国のタバコ問題の現状を正確につかむことが大事です。多くの国にとっては、すでにたやすく入手できるデータの宝庫があります。可能なところでは、次の事項に関する情報をつかんでおく必要があります。
− 社会人口統計的特徴
− タバコ生産、取引およびタバコ産業
− タバコ消費量
− タバコ使用率
− タバコによる死亡と障害発生率
− タバコ規制のための対策・組織・機関
− 国家経済とタバコ
− タバコ広告・販売促進活動
− タバコ問題に関する世論の動向



付録1 世界健康会議における「タバコか健康か」決議(1970〜1995年)



関連決議一覧
タイトル (採択年月)
 WHA23.32決議:喫煙の制限(1970年5月)(略)
 WHA24.48決議:喫煙の制限(1971年5月)(略)
 WHA29.55決議:喫煙規制(1976年5月)(略)
 WHA31.56決議:喫煙規制(1978年5月)(略)
 WHA33.35決議:喫煙規制(1980年5月)(略)
 WHA39.14決議:タバコか健康か(1986年5月)[*]
 ---------------------------------------------------------
 WHA40.38決議:1988年4月7日:世界禁煙デー(1987年5月)(略)
 WHA41.25決議:タバコか健康か行動プログラム(1988年5月)(略)
 WHA42.19決議:タバコか健康か(1989年5月)(略)
 WHA43.16決議:タバコか健康か(1990年5月)[**]
 ----------------------------------------------------------
 WHA44.26決議:喫煙と旅行(1991年5月)(略)
 WHA45.20決議:WHO「タバコか健康か」プログラムに関する多分野協力(1992年5月)(略)
 WHA46. 8決議:国際連合組織の建物内のタバコ使用(1993年5月)(略)
 WHA48.11決議:タバコ規制の国際戦略(1995年5月)(略)

[*]世界保健会議決議WHA39.14
 第39回世界保健会議は、

 タバコ喫煙の健康影響と喫煙と健康に関するWHO行動計画に関するWHA31.56およびWHA33.35を想起し、
 毎年少なくとも100万人以上の命が失われ、それ以上の人々が障害を受けているという喫煙をはじめとしたタバコによる厄災が世界広まっている現状を憂慮し、
 人類の健康を守るために健康とタバコの間の戦いに勝たなければならずまたそれが可能だという信念に支えられ、
 いくつかの国々においてタバコの宣伝の完全な禁止・制限・規制が実現したという事実に励まされ、

1.以下の点を確認する。
(1)タバコ喫煙をはじめとしたいかなる形のタバコ使用も西暦2000年までにすべての人々に健康をもたらそうという目標の達成と両立しない。
(2)タバコの煙をはじめとしたタバコ製品が発ガン物質やさまざまな有害物質を含む事は証明済みの事実である。また、タバコが広い範囲の死亡と障害をもたらす病気の原因となっている事は科学的に証明済みである。
(3)受動喫煙がタバコを吸わない人々の、この有毒物質による環境汚染から保護されなければならないという健康に生存する権利を侵害している。

2.いますぐこのタバコ厄災と戦うための地球規模の公衆保健的アプローチと行動に立ちあがる事を要請する。

3.宣伝されているとおりのやり方で使用しても甚だしい依存性と健康被害をもたらすタバコ使用を促進するあらゆる直接的および間接的活動を嘆かわしく思う。

4.喫煙対策戦略を実行していないWHO加盟国に対して、最低限下記の内容を含む
対策を実行する事を要請する。
(1)非喫煙者が、閉鎖空間の公共施設・レストラン・交通機関・職場・娯楽施設においてタバコ煙への強制的曝露を受けないよう確実に保護される対策。これは非喫煙者の当然の権利である。
(2)こどもや若者達がタバコ依存となる事を防ぐために、タバコ使用から抜け出す対策を推進する事。
(3)すべての保健関連施設と医療保健従事者が率先して禁煙の良き手本を示す対策。
(4)タバコ使用を奨励し持続させる社会経済的、行動学的因子をはじめとしたあらゆる促進要因を最終的に一掃する対策をとる事。
(5)紙巻きタバコの箱をはじめすべてのタバコ製品の容器に、タバコには依存性がある旨をはじめとした有害警告文を明瞭に表示する事。
(6)保健専門家およびマスメディアの積極的な参加のもとに、禁煙プログラムを含むタバコと健康の問題に関する教育・情報伝達プログラムを作り上げる事。
(7)喫煙をはじめとしたあらゆる形態のタバコ使用、タバコ関連疾患、自国の喫煙規制活動の有効性のトレンドをモニターする事。
(8)タバコの生産・取引・課税に代わる実効ある経済的代替え対策の実施。
(9)以上の活動を促進し、支援し、調整するための全国的結集機関の創設。

 5.国際連合の諸組織に以下をアピールする。
(1)各々の権限のおよぶ分野において、あらゆる可能な手段でWHOを支援する事。
(2)各々の施設内の非喫煙者の健康を受動喫煙被害から守る事を通じて、タバコによって引き起こされる病気の蔓延を食い止めるためのWHOの努力に連帯の意志を示すこと。こうした行動が大きな手本を示す行為となるからである。
(3)タバコの耕作、タバコ製品の製造・取引に代わる経済活動を決めて推進するよう加盟各国を援助すること。

6.国連事務総長に以下を要望する。
(1)第8次総合事業計画(the Eighth General Programme of Work)への正式な追加を待つ事なく、現行の喫煙と健康に関する計画を強化する事。なぜなら、WHOの目に見える断固とした態度表明は、加盟各国にとって西暦2000年までにタバコ厄災を克服する上で欠かせない前提条件である支援と激励となるからである。
(2)現行の喫煙と健康プログラムを充分な連続性をもって長期的に支えるための資金と人材面での支援を動員する事。
(3)WHOの喫煙と健康に関する活動を支援する他の国連機関による行動の調整を最高執行レベルで行う事。
(4)適切と考えられるNGOとの協力を継続し強化する事。
(5)WHOがタバコと健康の問題で効果的な全世界的支援の役割を果たし、他の保健機関と同様に、非喫煙を実践する手本としての役割を果たせるよう保証する事。
(6)各国の喫煙対策活動に支援を行う事。
(7)活動の発展状況を国連執行委員会と第41回世界保健会議に対して報告する事。
1986年5月


[**]世界保健会議決議WHA43.16
 第43回世界保健会議は、
 第43回世界保健会議の喫煙と健康の問題に関する強力な会頭声明を想起し、
 タバコ喫煙の健康被害と「タバコか健康か」WHOプログラムに関するWHA33.35、WHA39.14、WHA、41.25、WHA42.19決議を想起し、
 タバコ栽培からの転換およびタバコの生産と消費がもたらす健康と経済への被害をレビューしたWHA42.19決議に含まれる条件を想起し、
 WHA39.14が各加盟国に9項目の包括的喫煙対策戦略の実行を求めた事を改めて想起し、

 以下の事実すなわち、
(a)多くの加盟国がこの戦略の実行において大きな前進をとげた事。
(b)包括的喫煙規制方針を実行した加盟国でタバコ消費が引き続き減少している事。
(c)タバコ規制戦略の有効性を証明する最近の情報、と