世界禁煙デー2007にむけて

パンフレット「屋内全面禁煙を」(WHO

森 亨

結核予防会結核研究所名誉所長

2007年も世界禁煙デー(World No Tobacco Day, WNTD)が近づいている。WHO2007年の統一標語を「たばこ煙のない環境を」と定め,WNTD”Wanted”ではない)に向けた啓発用の媒体をいくつか発表している。いずれもこの標語を掲げたポスター(3種),絵入り見出し(Banner),カット(Symbol),そしてパンフレットである。その概要を紹介したい。詳細はWHOのサイトにあるパンフレットを、また和訳版もあわせてご覧いただきたい。

 本年のシンボルは,スカイブルーに-透き通ったシャボン玉のようなすがすがしいイメージの地球をバックに”Smoke-free inside”と白で大書したものである。パンフレットはこれを表紙に,続く10ページの絵入りの本文と裏表紙からできている。統一標語は「たばこ煙のない環境を」だが,これをみると環境とは”inside”(屋内)がターゲットなのだと知らされる。ポスターでも,あしらわれているのはヘアドレッサー,コールセンター,屋内労働者の様子である。

 パンフではまず「100%たばこ煙ゼロ環境−全面禁煙の環境だけが全ての人々を間接喫煙(SHSSecond-hand smoke,「お下がり」の煙,他人の排出したたばこ煙)の深刻な被害から守る唯一の手段であり,その科学的証拠には疑いの余地がない」と打ち出す。そして,それをすでに法制化した国や地方の例を引いて,それがいかに人々に喜ばれ,実践可能であるかを説く。

 そして,もっと具体的にパンフは間接喫煙の有害性について6点を掲げ(@間接喫煙とは,A間接喫煙とがん,B間接喫煙に安全値はない,Cこどもの間接喫煙被害,D間接喫煙による死亡件数,E間接喫煙の経済影響),最後に2006年の米国公衆衛生総監の年次報告「たばこ煙へ強制的ばく露の健康影響」などの重要文献を紹介している。

 そして人々を間接喫煙の悪影響から保護するための4項からなるWHO勧告を掲げ,「これらの勧告をテコにして,たばこ煙ゼロ政策とその法制化を手引きし,政策決定の場にある人たちに「全ての場所をたばこ煙ゼロにすることこそが,公衆と労働者の健康を適切に守る唯一の立証された手段だ」ということをもっと認識させるようにしていただきたい」といっている。

 さらに,このような動きに対して予想されるたばこ業界の妨害,そのための根拠のない反論にどのように対抗するかについて,具体的に6点の想定問答を掲げている。原文ではmyth(神話)という語で根も葉もない議論(一方では安全神話,他方では屁理屈)を表現している。これらは「環境たばこ煙は不快なだけ」という古典的な議論から始まり,「空調があれば安全」という技術論,「喫煙者の権利」というエセ人権論までを含む。いずれに対しても適切な論破の仕方を説明している。

 続いてたばこ会社の屋内全面禁煙法制定への反対の動きを,1970年代からの歴史をふりかえりつつ,各年代の代表的なたばこ会社のホンネを述べている。ある会社の内部資料も引用されるなど,会社の戦術を生々しく暴いている。ここでも思い出すのは「間接煙」に対して会社側の使う用語−「環境中たばこ煙(ETS)」にサラリとこめられた敵の企みである。環境中にたばこの煙が独りでに存在するかのようなことを印象づける,この表現はずいぶん巧妙なレトリックである,と感心してしまう。

そして,結論として「なぜいま『屋内全面禁煙』なのか?」。ここではその理由から実践のメリットを9点にまとめて述べる。

@間接喫煙は死を招き,深刻な疾病を起こす。
A100%たばこ煙ゼロ環境こそが労働者や公衆をたばこ煙の重大な被害から守る。
Bだれもがたばこ煙汚染のない,きれいな空気を吸う権利がある。
C大部分の人々は非喫煙者であり,他人の吐き出したたばこ煙にさらされない権利を持つ。
D全面禁煙は喫煙者からも非喫煙者からも支持される。
E100%たばこ煙ゼロ環境はとくに青少年の喫煙開始を防ぐ。
F100%たばこ煙ゼロ環境は多くの禁煙願望の喫煙者に,禁煙または喫煙減量への強い誘因を与える。
G100%たばこ煙ゼロ環境は,子どもをもつ家庭と同様,企業にとっても好都合であり,また非喫煙者だけでなく喫煙者すら全面禁煙の場所に行きたがる。
H100%たばこ煙ゼロ環境は費用がかからず,効果的である。

 ここしばらくの間のWNTDの統一標語をみてみると,間接喫煙が採り上げられたのは,2001年(間接喫煙は死を招く,second-hand smoke kills)以来のことである。間接喫煙の有害性を全面に出していただけの6年前に比して,今回はよりポジティブに新しいパラダイムの創造を訴えている。これはこの間,それだけの状況の前進があった(例:2005年の枠組み条約の発効など)ということを反映しているのであればうれしい。しかし,我々としてはこのパンフで示された100%たばこ煙ゼロ環境と日本の現実のギャップをしっかり認識して,問題の解決を考えなければならないと思う。


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