日本禁煙推進医師歯科医師連盟では、学術発表と会員の情報交換の場として年1回学術総会 を開催しております。皆様のご参加をお待ちしております。日時等は改めてお知らせ致します。




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循環器疾患

 

1, 受動喫煙と冠動脈心疾患のリスク-疫学調査のメタアナリシス N Engl J Med 1999; 340 : 920 – 6
Passive Smoking and the Risk of Coronary Heart Disease- A Meta – Analysis of Epidemiologic Studies

【背景】  受動喫煙の冠動脈心疾患のリスクに対する影響は議論の的になっている.そこで,われわれは,非喫煙者における受動喫煙に関連した冠動脈心疾患のリスクについてのメタアナリシスを実施した.

【方法】  MEDLINE と Dissertation Abstracts Online のデータベースの検索と,関連文献の引用の詳しい調査を行い,あらかじめ設定しておいた組み入れ基準に合致した 18 件(10 件がコホート調査,8 件がケースコントロール調査)の疫学調査を識別した.それらの調査の研究デザイン,対象被験者の特性,受動喫煙の暴露と転帰の評価方法,考えられる交絡因子の調整,およびリスクの推定値に関する情報は,3 名の研究者がそれぞれ別々に標準化プロトコールに従って要約した.

【結果】 全体では,環境中のタバコの煙の暴露を受けなかった非喫煙者と比較したときの暴露を受けた非喫煙者の冠動脈心疾患の相対リスクは 1.25 であった(95%信頼区間,1.17 ~ 1.32).コホート調査(相対リスク,1.21; 95%信頼区間,1.14 ~ 1.30),ケースコントロール調査(相対リスク,1.51; 95%信頼区間,1.26 ~ 1.81),男性(相対リスク,1.22; 95%信頼区間,1.10 ~ 1.35),女性(相対リスク,1.25; 95%信頼区間,1.15 ~ 1.34),および自宅(相対リスク,1.17; 95%信頼区間,1.11 ~1.24)や職場(相対リスク,1.11; 95%信頼区間,1.00 ~ 1.23)でタバコの煙の暴露を受けた人々において,受動喫煙は,冠動脈心疾患の相対リスクの上昇に一様に関連していた.暴露量との有意な用量依存性が認められ,タバコの煙の暴露を受けなかった非喫煙者と比較したときの 1 日当り 1~19 本のタバコの煙の暴露を受けた非喫煙者の相対リスクと,1 日当り 20 本以上のタバコの煙の暴露を受けた非喫煙者の相対リスクは,それぞれ 1.23,1.31 であった(直線的傾向性について p = 0.006).

【結論】 受動喫煙は,冠動脈心疾患のリスクのわずかな上昇に関連している.喫煙率の高さを考えると,冠動脈心疾患に関しては,公衆衛生における受動喫煙の結果は重要かもしれない.

 

2,葉巻の男の心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、癌のリスクへの影響
Carlos Iribaren et al(Oakland). Effect of cigar smoking on the risk of cardiovascular disease, chronic obstructive pulmonary disease, and cancer in men. N Engl J Med 1999; 340:1773-80.

【背景】 米国では葉巻の売り上げが1993以来増えている。葉巻は特定の癌やCOPDの危険因子として知られているが、心血管疾患との関係ははっきりしていない。

【方法】17,774人の男性30-85歳の追跡調査(1971-1995)。葉巻使用者1546人と非喫煙者16,228人。

【結果】多変量解析で、葉巻者は非喫煙者に比べて相対危険度は、心血管疾患に対して1.27、COPDに対して1.45、上部消化管癌に対して2.02、肺癌に対して2.14だった。葉巻とアルコールには相乗効果が認められた。

【結論】他の危険因子とは独立に、葉巻の常習は心血管疾患、COPD、上部消化管、肺癌のリスクを高める。

 

【3, カリフォルニア州の煙草抑制プログラムと紙巻き煙草の消費量および心疾患による死亡の減少との関連  N Engl J Med 2000; 343 : 1772 – 7
Association of the California Tobacco Control Program with Declines in Cigarette Consumption and Mortality from Heart Disease Caroline M.Fichtenberg and Stanton A.Glantz】

 

【背景】 カリフォルニア州の煙草抑制プログラム(the California Tobacco Control Program)は,有権者によって制定され,紙巻き煙草への付加税を財源とし,1989 年に施行された大規模で積極的な反煙草プログラムである.このプログラムが,カリフォルニア州における紙巻き煙草の消費量の減少と喫煙率の低下を促進させることになった. 高い心疾患のリスクは禁煙後に急速に低下することから,今回,われわれは,このプログラムが心疾患による死亡率の低下に関連しているという仮説の検討を行った.

【方法】 1980 ~ 97 年までのカリフォルニア州および米国における一人当りの紙巻き煙草の消費量と,年齢で補正した心疾患による死亡率のデータを,重回帰分析のモデルに適合させた. この回帰分析には,米国のカリフォルニア州以外の州における死亡率と,煙草抑制プログラムが承認された 1988 年以降の死亡率と,このプログラムが中止された 1992 年以降の死亡率に 変化を与える可能性があった変数を組み入れた.

【結果】 1 989 ~ 92 年までの期間のカリフォルニア州における一人当りの紙巻き煙草の消費量と心疾患による死亡者数の減少率は,米国の他州と比較して,1989 年以前の減少率よりも 有意に高く,1 年当りの消費量は年間 2.72 箱づつ減少し(p = 0.001),100,000 人-年当りの死亡者数は年間 2.93 人づつ減少していた(p < 0.001). これらの減少率は,このプログラムが中止された 1992 年から低くなった(1 年当りの消費量は年間 2.05 箱づつ減少[ p = 0.04 ],100,000 人-年当たりの死亡者数は年間 1.71 人づつ減少[ p = 0.03 ]). これらの問題にもかかわらず,このプログラムに関連して,1989 ~ 97 年におけるカリフォルニア州の心疾患による死亡者数は,それ以前の米国の他州との比較における傾向を維持したと仮定した場合の期待死亡者数よりも,33,300 人減少していた. また,1992 年以降にこのプログラムの効果が減弱されたことによって,このプログラムで得られた最初の有効性が持続していたと仮定したときの期待死亡者数よりも,実際の死亡者数は 8,300 人増加していた.

 【結論】 大規 模で積極的な煙草抑制プログラムは,心疾患による死亡者数を短期的に減少させることに結びついている.

 

4. Risk factors for acute myocardial infarction in Indians: a case-control study    Lancet 1996; 348: 358-63
Prem Pais, J Pogue, H Gerstein, E Zachariah, D Savitha, S Jayprakash, P R Nayak, Salim Yusuf

Departments of Medicine (P Pais MD, E Zachariah PhD, D Savitha BSc), and Cardiology (S Jayprakash DM, P R Nayak DM), Epidemiology Research and Training Centre, St John’s Medical College, Bangalore 560034, India; and Divisions of Cardiology (J Pogue MSc, Prof S Yusuf FRCP), and Endocrinology (H Gerstein FRCPC), McMaster University and the Hamilton Civic Hospitals Research Centre, Hamilton General Hospital, 237 Barton Street East, Hamilton, Ontario, Canada L8L 2X2 Correspondence to: Prof Salim Yusuf

 

【BACKGROUND】  South Asians who have settled overseas and those in urban India have an increased risk of ischaemic heart disease (IHD). Reasons for this increased risk are unclear. Most studies have been based on migrants to western nations, so their findings may not apply to most south Asians, who live in their own countries. Therefore, we assessed the relative importance of risk factors for IHD among South Asians in Bangalore, India.

【METHODS】  We conducted a prospective hospital-based case-control study of 200 Indian patients with a first acute myocardial infarction (AMI) and 200 age and sex matched controls. We recorded prevalence of the following risk factors for IHD: diet, smoking, alcohol use, socioeconomic status, waist to hip ratio (WHR), blood glucose, serum insulin, oral glucose tolerance test, and lipid profile.

【FINDINGS】  The most important predictor of AMI was current smoking (odds ratio [OR] 3・6, p<0・001) of cigarettes or beedis (a local form of tobacco), with individuals who currently smoked 10 or more per day having an OR of 6・7 (p<0・001). History of hypertension and of overt diabetes mellitus were also independent risk factors (OR 2・69 [p=0・001] and 2・64 [p=0・004], respectively). Among all individuals, fasting blood glucose was a strong predictor of risk over the entire range, including at values usually regarded as normal (OR adjusted for smoking, hypertension, and WHR 1・62 for 1 SD increase, p<0・001). Abdominal obesity (as measured by WHR) was also a strong independent predictor across the entire range of measures (OR adjusted for smoking, hypertension, and blood glucose 2・24 for 1 SD increase; p<0・001). Compared with individuals with no risk factors, individuals with multiple risk factors had greatly increased risk of AMI (eg, OR of 10・6 for the group with smoking and elevated glucose). Lipid profile was not associated with AMI. In univariate analyses, higher socioeconomic (income) status (OR 0・32, p=0・005 highest vs lowest; OR 0・75 middle vs lowest) and vegetarianism (OR=0・55, p=0・006), seemed to be protective. The impact of vegetarianism was closely correlated with blood glucose and WHR.

【INTERPRETATION】  Smoking cessation, treatment of hypertension, and reduction in blood glucose and central obesity (perhaps through dietary modification) may be important in preventing IHD in Asian Indians.

 

5,喫煙は動脈の弾性を低下させる   メディカルトリビューン 26 Jun 1997
アテネ大学(ギリシャ・アテネ)循環器科のChristodoulos Stefanadis准教授らが,大動脈の弾性は喫煙後 1 分以内で低下し,その状態は少なくとも20分間継続すると『Circulation』(95:31-38)に報告。このような作用は,左室機能の低下,心筋への酸素供給の減少および需要の増加を惹起し,心血管系疾患の原因となるのかもしれないという。

大動脈圧が上昇,伸展性も喪失

 Stefanadis准教授らは,喫煙男性40名のうち20名にフィルター付き紙巻きたばこを 1 回 5 秒間,15秒間隔で 5 分間吸ってもらった。残りの20名は火のついていないたばこを吸った。その後の検査結果で,喫煙グループでは,大動脈の平均拡張期圧および平均収縮期圧,大動脈の伸展性,橈骨動脈拍など大動脈の弾性に関与するいくつかの因子が悪化していることが判明。非喫煙群ではこのような影響は観察されなかった。 Stefanadis准教授らは「喫煙のもたらす有害な影響はこのような急性の作用が関係しているかもしれない」と記している。 喫煙群の大動脈は収縮期圧が喫煙前の131.0mmHgから喫煙後に141.5mmHg,拡張期圧も同様に75.7mmHgから84.0mmHgに上昇。非喫煙群では大動脈圧に変化は見られなかった。 Stefanadis准教授らの説明によると,大動脈が弾性を喪失すると,心臓,特に左室のポンプ機能に障害が生まれ,それを補うために心臓のポンプはさらに速く,強く収縮を始める。これは心臓の酸素需要を増加させるが,循環系に欠陥があるので心臓に戻ってくる酸素化血液の量は減る。 マサチューセッツ大学(マサチューセッツ州ウースター)心血管系血栓研究センターのRichard Becker所長は「これはまさしく板挟みのような状況であり,このような作用は喫煙者が負う心発作リスクに関係している」と述べた

 

6, 受動喫煙がアテローム性動脈硬化を加速   メディカルトリビューン 17 Apr 1998
ウェイク・フォレスト大学Bowman Gray校(ノースカロライナ州ウィンストンセイラム)公衆衛生学のGeorge Howard博士らは喫煙および受動喫煙と血管障害に関する大規模研究を実施し,『Journal of the American Medical Association』(JAMA,279:119-124)で「喫煙および受動喫煙は累積的かつ不可逆的に血管を損傷し,心筋梗塞や脳卒中を招く恐れがある」とする初の報告を行った。公衆衛生学の専門家らはこれを受けて「心血管疾患(CVD)リスクの総体的な評価には,患者に受動喫煙の有無をルーチンに確認し,また受動喫煙の低減を促進すべきだ」と主張した

1時間/週の受動喫煙でも影響

 Howard博士らが喫煙者および非喫煙者 1 万914例を対象に 3 年間にわたって調査を行った結果,喫煙者の頸動脈のアテローム性動脈硬化は喫煙経験を有しない者より50%進行していた。
 超音波検査による測定で,喫煙群の頸動脈内膜・中膜の厚さが平均43.0μm増加していたのに対し,喫煙経験を有しない群での増加は28.7μmだった。過去に喫煙経験を有する群では,頸動脈のアテローム性動脈硬化が喫煙経験が全くない群より25%進行していた。また,定期的受動喫煙群は非受動喫煙群より20%進行していた。今回の研究における受動喫煙者の定義は,1 週間に 1 時間以上喫煙者に接する者とした。
 同博士は「CVDを予防するためには,受動喫煙の回避に禁煙推進と同等の力を注ぐべきであり,これは糖尿病や高血圧などのCVDリスクファクター保有者およびCVD患者では特に重要である」と述べた。
 米国心臓協会(AHA)によると,17歳以上の米国人の約半数が自宅または職場での受動喫煙者であるという。

受動喫煙の 危険を両親に

 ロチェスター大学(ニューヨーク州ロチェスター)地域予防医学のRachel M. Werner博士とThomas A. Pearson博士は付随論評で,「受動喫煙に関して真に受動的かつ消極的なのはわれわれ自身の対応である。受動喫煙がCVDの重要なリスクファクターであることを認識し,受動喫煙の有無を患者に問い,慢性疾患予防法の一部として清浄な空気を求めるべきである」とコメントした。
 ウィスコンシン大学(ウィスコンシン州マディソン)たばこ研究・介入センターのMichael Fiore部長は「今回の研究は,喫煙の危険に関する優れた新知見を提供している。特に,受動喫煙の危険を子供を持つ両親に知らせることは重要だと思う」とコメントした。
 AHAの広報担当でサウスアラバマ大学(アラバマ州モビール)生理学のAubrey Taylor主任教授は「 1 日にたばこ 1 箱を吸う喫煙者のそばにいる非喫煙者は,自分で半箱を吸うのとほぼ同等の煙に曝露されている。受動喫煙が高血圧や糖尿病の発症に伴う心血管疾患の発症を加速し不可逆的にするらしいという事実は,リスクの重大さを示している」と述べた。

 

7, 健常に見えても喫煙者では血管内皮細胞障害が進行   メディカルトリビューン 05 Nov 1998
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA,ロサンゼルス)のRoxana Campisi博士らは「医学的に明らかな問題がない喫煙者でも心血管疾患発症リスクがある」と『Circulation』(98:119-125)に発表した。喫煙は,健常者においても心血管疾患の早期徴候である冠動脈内皮細胞の微細な障害を引き起こすという。

冠血流量が14%減少

 Campisi博士らは心拍数を増加させる一連の試験を実施。その結果,喫煙群では非喫煙群に比べ,冠血流量が平均14%減少し,冠血管の機能低下が示唆された。
 同博士は,たばこの煙のなかの有毒成分,特に一酸化炭素は内皮細胞に直接作用し,内皮細胞のプロスタサイクリン産生を抑制すると考えている。プロスタサイクリンは,アテローム性動脈硬化症の初期イベントである血管拡張および白血球の内皮細胞への接着亢進に寄与している。
 試験に参加した健常者33例のうち,16例は11~39年間にわたる喫煙歴を有していた。胸痛や息切れ,動脈閉塞などの心血管疾患の典型的徴候を認めた参加者は皆無だった。
 共著者で,UCLA分子・医療薬理学および核医学のJohannes Czernin准教授によると,喫煙期間が長いほど冠血流異常が増加するが,これについてはさらに検討する必要があるという。
 同准教授は「アテローム斑による冠動脈閉塞を来していない喫煙者でも冠血流量が減少している」と指摘。禁煙後どれくらいで血管機能が正常に回復するのか,あるいは,果たして回復することがあるのかについては明らかにされなかった。
 試験方法としては,放射性物質の13N-アンモニアを静注し,ポジトロン放射型断層撮影(PET)を用いて冠血流量の測定を行った。測定は,(1)安静時(ベースライン時)(2)心臓に負荷をかけ心拍数を増加させるため手を冷水中に浸している(寒冷昇圧試験)とき(3)心臓への血流を増加させるジピリダモールを 4 分間かけて静注後-に行われた。
 ベースライン時,両群の冠血流量は同程度だったが,寒冷昇圧試験を行うと非喫煙群のみ増加した。冠血管抵抗は寒冷曝露中,両群ともに不変だったが,喫煙群でより高い値を示した。
 米国心臓協会(AHA)のスポークスマンでもあるジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)の循環器科医David A. Meyerson博士は「今回の知見はまた,たばこの有害作用の新たな機序を示すデータである。医師は禁煙指導を続けるとともに,禁煙が最良かつ唯一の心血管疾患予防策だと認識せねばならない」と述べた。

 

8, 心発作患者は喫煙やコレステロールに敏感
メディカルトリビューン[2001年1月4日 (VOL.34 NO.01)
p.05]ウェイクフォレスト大学(米ノースカロライナ州ウィンストンセーラム)バプティスト医療センター(WFUBMC)内科学・公衆衛生学のJohn R. Crouse教授によると,心発作経験者にとっては,喫煙や低レベルの高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールは特別なリスクになりうる。

血管疾患が3~4倍速く進行

 Crouse教授は「われわれは,心臓病を持たない人よりも心発作を経験した人のほうが,血管疾患が平均して 3 ~ 4 倍速く進行することを発見した。喫煙あるいはHDLコレステロールが低レベルであることは,血管疾患の進行をさらに速め,心発作と心筋梗塞の再発を促す」と述べた。
 身体の血管にどのように種々のリスクファクターが影響するかを明らかにするために,同教授らは 3 年以上にわたって成人280例の血管壁の厚さを超音波検査で測定した。肥厚した血管壁は,アテローム性動脈硬化症,すなわち心発作と脳卒中を引き起こす脂質沈着物形成の初期徴候である。
 血管壁の厚さの測定は,脳への血液供給を行っている主要な血管である頸動脈で行った。この血管で研究を行った理由は,心臓の動脈とは異なり非侵襲的に測定できるからである。血管疾患は通常,全身にわたって起きることが明らかにされているため,頸動脈の状態は冠動脈の状態を示す良い指標となる。
 同教授らは,いくつかのよく知られたリスクファクター,すなわち年齢,性,喫煙,血糖,BMI(body mass index),人種,閉経期か否か,高血圧そしてコレステロールがどの程度,血管壁肥厚の進行に影響するかを比較した。
 コンピュータによる分析を行い,それぞれのリスクファクターがどの程度,心発作経験者( 1 枝以上の冠動脈が50%以上閉塞)に影響するかを評価し,冠動脈疾患のないグループへの影響と比較した。
「頸動脈血管壁の肥厚は,冠動脈疾患を持たないグループよりも,心発作を経験したことのあるグループにおいて 3 ~ 4 倍速く進行した」と試験結果を発表した内分泌学研究者であるGreg Terry氏は述べた。「この影響は,標準的なリスクファクターによっては完全に説明されなかった。このことは,おそらく遺伝あるいはわれわれが,まだ知らないリスクファクターが最初に血管病変を起こしやすくしているということを示唆している」

2つのリスクファクターが影響

 心発作経験者において,2 つのリスクファクター,すなわちHDLコレステロールと喫煙歴が動脈の肥厚に最も影響を及ぼしていた。
 HDLコレステロールは,“善玉”コレステロールとして知られているが,その理由は,高値であるほど心発作を防御しているように思われるからである。研究者らは,血管壁の肥厚の進行は,HDLコレステロール値が35mg/dL未満であると,HDLコレステロール値が54mg/dL以上の場合に比べて 5 倍速いことを発見した。米国心臓協会(AHA)は,HDLコレステロール値が35mg/dL未満であると最も心疾患のリスクが大きいと述べている。HDLコレステロールを増やす効果的な方法は,運動,減量そして禁煙である。
 毎日 1 箱のたばこを 8 年間吸うことは,非喫煙者よりも 4 倍速く血管壁が肥厚することに相当する。
「もし,患者が冠動脈疾患であると診断されたならば,これらの結果は,患者がHDLコレステロール値に特に注意を払い,さらにもし喫煙しているなら禁煙すべきである,と助言しなければならない」とCrouse教授は述べた。
 この研究の結果は,超音波による測定を心発作や脳卒中のリスクのある人を診断するスクリーニング法として,有用であることを示唆しているという。「動脈が肥厚する速さを測定することにより,おそらく,それが原因で起こるアテローム性動脈硬化症や心発作や脳卒中になりそうな人を予測することができる」と,同教授は述べた。
 研究に参加した患者は,入院歴があり,心臓の動脈内の沈着物を除去するために心カテーテル検査を受けた成人であった。この研究では,男性と女性の割合は等しく,心血管疾患の経験者,未経験者の人数も等しかった。