日本禁煙推進医師歯科医師連盟では、学術発表と会員の情報交換の場として年1回学術総会 を開催しております。皆様のご参加をお待ちしております。日時等は改めてお知らせ致します。




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産婦人科疾患

 

1,日本人類遺伝学会第43回大会一般演題(99年10月13日)
タバコ煙暴露による子宮内胎児発育遅延と胎盤におけるアポトーシスとの関連について
後藤英夫,増崎英明,中山大介,吉田敦,浜口直美,石丸忠之(長崎大 産婦人科)

ヒトおよび動物実験で,喫煙が子宮内胎児発育遅延を引き起こすことが知られている.今回,妊娠マウスにタバコ煙を暴露させ,子宮内胎児発育遅延の程度およびその胎盤におけるアポトーシスの発現を検討した.妊娠マウス(Crj: CD1,妊娠期間:21日)に胎齢5日より7日間(暴露群1:7匹)および14日間(暴露群2:7匹),毎日1時間タバコ煙を暴露させ,胎齢19日に経腹的に胎仔を娩出させた.また,無処置の胎仔を対照群とした(5匹).そして,3群の胎仔重量および母体血中ニコチン濃度を測定,胎盤におけるアポトーシスの発現を確認するために,組織学的にTUNEL法および生化学的にアガロースゲル電気泳動による検討を行った. 暴露群1および2の胎仔重量(それぞれ1.249±0.107g,1.058±0.164g) は,対照群(1.530±0.123g) より有意に減少していた(p<0.0001).さらに,暴露群2の胎仔重量は暴露群1より有意に減少していた(p<0.0001).暴露群2のニコチン濃度(0.688 ±0.085 μg/ml) は暴露群1(0.001±0.001μg/ml) および対照群 (0.006±0.007μg/ml)より有意に上昇していた(p<0.0001).暴露群1および2(それぞれ0.22±0.09%,1.25±0.52%)の胎盤におけるTUNEL陽性細胞は対照群(0.13±0.06%) より有意に増加していた(p<0.0001).暴露群2のTUNEL陽性細胞は暴露群1より有意に上昇していた.また,暴露群1および2では胎盤のDNAのラダーパターンを示したが,対照群では明らかでなかった.妊娠マウスにおけるタバコ煙暴露による胎仔子宮内発育遅延は,胎盤におけるアポトーシス発現と関連があると考えられた

 

2,ピル服用と喫煙の関係 NICHD=National Institute of Child Health and Human Development(NIHの付属機関)で行われたスタディ

米国内、人口10万あたりの一年あたりの死亡率の期待値
 
  ピル非服用 備非喫煙ピル服用 喫煙ピル服用
15-19歳 5 1 2
20-24歳 6 1 4
25-29歳 7 2 6
30-34歳 13 3 12
35-39歳 21 9 31
40-44歳 22 18 61

 

以下は山形県在住S産婦人科医の談話


喫煙者がピルを服用した場合、ピルを服用していない非喫煙者と比べると心筋梗塞発症率は22倍も高まるとされており、非喫煙ピルユーザーと比べても6倍以上高いとされています。米国では、これらのことをふまえた上で喫煙者に対しては禁煙が勧められ応じられない人々にはリスクを自分で引き受けることを条件にピルが処方されます。(自由の国ですから)翻って日本では、添付文献を鵜呑みにすれば、25歳で一日10本しかタバコを吸わないんだったら、全然大丈夫ですよ、という医師の言葉と共にピルが処方されてしまう可能性が高いです。 若年者の心筋梗塞率がかなり上昇するでしょう。我々は喫煙者にピルを勧めないようにしなければいけません。高血圧で喫煙者の場合、ピルを服用すると心筋梗塞率は健常者の170倍以上とされております。

 

3,後続出産における早産のリスクに及ぼす在胎月齢と喫煙習慣の影響 N Engl J Med 1999; 341 : 943 – 8
The Influence of Gestational Age and Smoking Habits on the Risk of Subsequent Preterm Deliveries Sven Cnattingius, and others

【背景】 早産の既往歴と母親の喫煙は,早産のリスクの上昇と関連がある.しかしながら,早産したときの在胎月齢がその後の早産の在胎月齢と関連しているかどうか,あるいは喫煙習慣の変化がその後の早産のリスクに影響しているかどうかは不明である.

【方法】今回,われわれは,喫煙習慣,これまでの出産における早期または中期の早産(それぞれ,32 週未満の早産,32 ~ 36 週の早産)の既往,およびその後の出産における早期早産または中期早産のリスクとの関連を,スウェーデンにおいて 1983 ~ 93 年に女性 243,858 人の人口ベースのコホートを対象として検討した.得られた結果は,早産に関連していることが知られている共変量で補正した.

【結果】 前回の出産が早期早産であった女性では,前回の出産が正期産であった女性と比較したときの次回の妊娠における早期早産または中期早産のオッズ比は,それぞれ 12.4(95%信頼区間,9.1 ~ 17.0)および 7.1(95%信頼区間,6.0 ~ 8.4)であった.前回の出産が中期早産であった女性では,これらのオッズ比はそれぞれ 2.3(95%信頼区間,1.9 ~ 3.0)および 5.9(95%信頼区間,5.5 ~ 6.3)であった.1 日当り1 ~ 9 本の煙草を吸っていた女性および 10 本以上吸っていた女性では,非喫煙女性と比較したときの第二子の早期早産のオッズ比は,それぞれ 1.4(95%信頼区間,1.1 ~1.7)および 1.6(95%信頼区間,1.3 ~ 2.0)であった.これらに対応する中期早産のオッズ比は,1.3(95%信頼区間,1.2 ~ 1.4)および 1.5(95%信頼区間,1.4 ~ 1.6)であった.妊娠と妊娠のあいだに禁煙した女性では,早期または中期早産のリスクの上昇は認められなかったが,第二子妊娠中に喫煙を開始した女性では,このリスクは妊娠中,継続的に喫煙していた女性と同程度であった.

【結論】後続妊娠における早期早産のリスクは,主に前回の出産が早期早産であった女性で上昇している.さらに,喫煙習慣の変化も早産のリスクに影響を及ぼしている.

 

4, 喫煙女性でIVFの妊娠率低下  メディカルトリビューン 24 Jun 1997
不妊治療を受けている女性で喫煙習慣のある者は妊娠率が大幅に低下する,とアイオワ大学病院&クリニック(アイオワ州アイオワシティー)のBradley Van Voorhis博士らが『Obstetrics & Gynecology』(88:785-791)に報告した。

妊娠率は2分の1

 Voorhis博士らが体外受精(IVF)あるいはその他の不妊治療を受けている女性499例を調べたところ,喫煙者の妊娠率は喫煙歴はあるが今ではたばこを吸っていない女性および喫煙歴の全くない女性の 2 分の 1 であることが明らかになった。また,喫煙が妊娠に与える悪影響は一時的なものでなく,長期間に及ぶという。
 Voorhis博士は「喫煙期間の長さに比例して卵子や胎芽の数も少なくなる。喫煙者では非喫煙者と比較して,1 日当たり 1 箱の喫煙を10年間続けると,成熟卵子の数は平均2.5個,胎芽の数は平均 2 つ少なくなる」としている。
 さらに,喫煙は卵巣機能に長期的な有害作用を及ぼすようだ。Voorhis博士らは「ニコチンの代謝産物であるコチニンが卵胞液中に発見されている。喫煙は卵胞を殺してしまうのかもしれない」と説明した。
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(ロサンゼルス)産科婦人科のAlan DeCherney部長は「おもしろい研究だが驚きではない」と述べた。同部長は,不妊治療を受けているいないにかかわらず,喫煙女性の妊娠率が低いことは既にいくつかの研究で示唆されているとし,「大切なことは,妊娠を希望する女性はたばこを吸うべきでないということだ」と語った。

 

5, 妊娠中の喫煙が低呼吸能児出産の原因に メディカルトリビューン 20 Jun 1997
マーガレット王女小児病院(パース)のS. M. Stick博士らは,妊娠中喫煙していた女性は呼吸能力の低い児を生む可能性が大きい,と『Lancet』(348:1060-1064)で報告した。

 Stick博士の研究チームは,インダクタンス・プレチスモグラフィという方法を用いて,乳児の胸部と腹部の周囲に巻いたコイルからの電気伝導量の変化によって新生児461人の出生後159時間以内の胸壁の動きを記録し,肺機能を測定した。その結果,喫煙する母親から生まれた児は非喫煙者から生まれた児よりも肺容量が小さいことが明らかになった。 Stick博士によると,妊娠中の喫煙量が多ければ多いほど,子供の肺容量は小さくなる傾向が認められた。
 米国小児医療センター(ワシントンD.C.)アレルギー学・免疫学・肺医学科のRobert J. Fink部長は「それは,乳児の気道の機能が低下していることを意味している」と述べた。 喫煙する母親から生まれた乳児の肺は非喫煙者の乳児よりも小さいか,または既に炎症を起こしている。
 妊娠中に喫煙している女性のほぼ全員が出産後も喫煙を続けるため,乳児が受ける喫煙の影響は出生後の曝露によるものだと主張している研究者もいる。
 しかし,Fink部長は,本研究は出生後最初の 1 週間について調べたものであるため,ここで見られた肺機能の低下は出生前に起こったものと考えられるという。
 Stick博士は「初期の肺機能,乳児期の喘鳴を伴う疾患,その後の小児期の喘息症状の間には,重要な相互作用が証明されている」と述べた。
 Fink部長は「妊娠中の喫煙が児にとって有害であることは疑う余地がない。早産の30%以上と乳児突然死症候群(SIDS)の増加は,妊娠中の喫煙が原因となっている。これらはいずれも肺機能と関連するものと考えられる」と述べている。

 

6, 塗抹細胞診の軽度異常と20本以上の喫煙者には早期コルポスコピーを  メディカルトリビューン 08 Feb 1999
王立外科医学会(アイルランド・ダブリン)のSean Francis Daly博士らはAmerican Journal of Obstetrics and Gynecology(179:399-402,1998)に,塗抹細胞診で軽度の異常を認め,1 日20本を超える喫煙習慣があれば,早期コルポスコピー施行の正当な理由となる,と報告した。

喫煙本数が子宮頸癌リスクに関係

 Daly博士らは,子宮頸管スメアで軽度の異常を認め,4 年の間にコルポスコピーを実施した女性173例を対象にプロスペクティブな研究を行った。非喫煙者に比べて,1 日10本を超える喫煙習慣のある女性は悪性度が高い子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)のリスクが 2 倍高く,1 日20本を超える喫煙習慣のある女性になると約 6 倍高かった。
 同博士らは「これらの女性は早期コルポスコピーの対象と考えるべきだ。コルポスコピーの標準書式に喫煙本数を付記することで,早期コルポスコピーが妥当な女性を選別できると考えている」と報告した。
 平均年齢については,病変の悪性度が高い患者は34歳,悪性度が低い患者は36歳で,統計的に有意な差はなかった。
 同博士らは「CINの検出率向上にはヒトパピローマウイルス(HPV)の 2 次スクリーニングが有用だが,高価なうえ悪性度の高い疾患に認められるHPVサブタイプが増加している。子宮頸管スメアの依頼書式に喫煙本数がルーチンに記入されるようになれば,2 次スクリーニングが有用な可能性のある女性群を同定できるかもしれない」と報告した。
 喫煙と子宮頸癌に関連性があるとする考え方は新しいものではないが,同博士らの研究は塗抹細胞診で軽度の異常を認める女性に対して,早期コルポスコピーが妥当とされる喫煙本数の閾値を明らかにした点で一歩先んじている。 本数以外の検討も重要との声も
 米国立癌研究所(NCI,メリーランド州ベセズダ)のMark Schiffman博士は,Daly博士らの研究には参加していないが喫煙と子宮頸癌との関係を研究しており,「喫煙本数がまさに問題となると思われる」と述べた。
 この研究所見から大量の喫煙と悪性度の高いCINとの間に強い関連性が認められるにもかかわらず,Schiffman博士は「子宮頸癌リスクが高いのはどの患者かということを予測するには,喫煙本数のみでは役に立たない」と指摘。「喫煙本数に加えて,たばこの種類が重要な可能性がある。米国と英国その他では,たばこの種類が違うかもしれない」とし,「疾患のリスクファクターから確定診断に使用される可能性のある予測因子へ向かう際は,おおいに注意しなければならない」と述べた。

 

7, 妊娠中の喫煙量減少で低出生体重児出産リスクが低下
メディカルトリビューン 22 Aug 1997
バーモント大学(バーリントン)健康増進研究部のRoger H. Secker-Walker部長らは,妊娠中の喫煙の危険性に関する新しい研究を行い,妊娠中に禁煙するか,または少なくとも 1 日の喫煙本数を減らした妊婦では,低出生体重児を出産する可能性が有意に低下することが認められたと『Ob-stetrics & Gynecology』(89:648-653)で報告した。これは医師が妊婦に禁煙または節煙を勧める際に役立つ資料となるだろう。

禁煙で出生体重が250g増加

 Secker-Walker部長らは妊婦392人を対象として,最初の出生前受診時と妊娠36週目に妊婦に 1 日に何本喫煙しているかを聞き,通常の一酸化炭素モニター装置を使って妊婦の呼気中の一酸化炭素を測定したところ,最初の出産前受診以降に 1 日の喫煙本数を 9 本以上減らした者は,喫煙量を減らさなかった者に比べて,出産した乳児の出生体重が100g以上増加する可能性が高かった。
 低体重児出産リスクは喫煙量の増加に伴って増大し,禁煙した女性では低体重児出産が最も少なかった。
 Secker-Walker部長は「この研究は喫煙が出生体重に及ぼす悪影響をはっきりと確認するものだ」と述べている。
 さらに,簡単な回帰方程式を用いて, 1 日の喫煙本数が出生体重に及ぼす影響を調べた。その結果,例えば,最初の出生前受診時に 1 日13本(この時点の平均喫煙本数)吸っていた女性が,妊娠中の本数を 1 日に 9 本減らすと,出産する児の体重は約100g増える計算になる。
 その女性が妊娠中ずっと 1 日に13本吸い続ける代わりに,最初の受診前に完全に禁煙すれば,出産する児の体重は約250g増えるという。
 Secker-Walker部長は「われわれの研究は,どの程度喫煙量を減らせば,どの程度の利益を期待できるかを知る手引きとなるものだ。しかし,いちばん良いのは言うまでもなく完全に禁煙することだ」と強調する。
 この研究では,91人の女性が最初の受診前に禁煙し,110人は妊娠36週までに禁煙した。

胎児の“虐待”をやめよ

 イースタンバージニア医科大学(ノーフォーク)産婦人科のPeter Heyl助教授は「妊娠中の喫煙に関しては,今やデータの意味するところははっきりしている。『女性たちよ賢明であれ。禁煙し,胎児に対する虐待をやめよ』ということだ」と言う。
 Heyl助教授は「妊娠は行動を修正する努力を行い,実際に変化を及ぼすためのきわめて良い手段となる」と付け加えた。

喫煙の悪影響を明示

 シカゴ郊外にあるイリノイ地域周産期共同診療の開業産婦人科医,Stephen A. Myers博士は「この研究結果は妊娠中の喫煙に関するこれまでの報告を確認するものだが,そのことを強調しすぎてはならない。何よりも重要なのは,禁煙すれば妊娠中の喫煙の悪影響を取り除けることがはっきり示された点にある」と述べている。
 米疾病管理センター(CDC,ジョージア州アトランタ)によると,1994年に米国では,18歳以上の女性の2,300万人近くが喫煙しており,そのうち1,470万人が出産年齢の女性の大部分を含む18~44歳の女性である。

 

8, ~妊娠中の喫煙~ 子供の行動障害リスクが増大
メディカルトリビューン 12 Oct 1999
妊娠中,常習的に喫煙している女性では,その子供に行動障害や薬物依存が起こるリスクが増大することを,コロンビア大学(ニューヨーク)疫学および精神医学のMyrna M. Weissman教授らの研究チームが明らかにし,Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry(38:892-899)に発表した。この研究結果は,妊娠中の喫煙と子供の行動上の問題との間に関連性があることを示唆したこれまでの研究を支持するもの。

問題発生率は数倍に達する

 これによると,妊娠中,1 日に10本以上の喫煙をした母親の子供50例と,非喫煙の母親から生まれた97例についての研究で,喫煙する母親から生まれた男児では,思春期までに行動障害が発生するリスクが,喫煙しない母親から生まれた男児の 4 倍に達することが認められた。
 女児では,喫煙した母親の娘は10代で薬物依存に陥るリスクが,喫煙しない母親の娘の 5 倍に達した。
 以前の研究でも,妊婦が喫煙すると,その子供の注意欠陥・多動性障害(ADHD)のリスクが増大することが示唆されていた。今回の研究ではこの関連性は認められなかったが,ADHD,行動障害および薬物乱用は相互に関連のある行動上の問題で,「この論文はこれまでの研究結果を裏づけるものであり,その点で興味深い」と同教授は述べている。
 これまでに報告されたものとしては,母親の喫煙と小児期の行動障害やADHDをはじめとする行動および注意集中の問題との関連を明らかにする国際的研究が12件ある。ADHDの男児140例および非ADHD男児120例についての1996年の研究では,ADHD群の22%が妊娠中に喫煙した母親を持っていたのに対して,対照群ではこれが 8 %にすぎなかった。
 今回の研究でWeissman教授らは,10年の間に 3 回,母親と子供に面接して,離婚歴や親子関係の善し悪しなど,家族生活の細部を記録した。また,親が心理的問題の既往歴を持たないか,母親にアルコール乱用や薬物依存の前歴はないかなども調べた。これらのリスク要因を排除したのちにも依然として,母親の喫煙は,その女児の薬物依存,男児の行動障害との関連性を示した。

 

9, 妊娠中喫煙を続けた女性は注意欠陥多動性障害児出産リスクが高い
メディカルトリビューン 20 Jun 1997
ハーバード大学(ボストン)精神医学のJoseph Biederman教授らは,妊娠中喫煙を続けた女性では,妊娠中喫煙しなかった女性に比べて,胎児に注意欠陥・多動症候群(ADHD)が生じるリスクが 3 倍近く高くなる,と『American Journal of Psychiatry』(153:1138-1142)で報告した。この研究結果は,生殖年齢の女性の喫煙を思いとどまらせるための反喫煙プログラムにさらに弾みをつけるものとなるだろう。

喫煙女性の子供はIQも低い

 米疾病管理センター(CDC,ジョージア州アトランタ)によると,1994年に米国で喫煙する18歳以上の女性の数は2,300万人近くにのぼった。このうち1,470万人は生殖年齢の女性の大部分を占める18~44歳の年齢層に属するものだった。
 Biederman教授らは,6 ~17歳のADHDの男子140例と,正常男子120例について調査を行った。その結果,ADHDの男子では母親の22%が妊娠中に喫煙していたのに対して,正常男子の母親では,妊娠中に喫煙していた者が 8 %であることが分かった。
 さらに,妊娠中に喫煙していた母親の子供は,喫煙しなかった母親の子供よりIQも低かった。
 CDC喫煙と健康課のDonald J. Sharp博士は「これらの結果は,母親の妊娠中の喫煙とその子供の認識および行動障害との関連性を裏づけた以前の研究結果と一致するものだ」と述べている。
 Biederman教授らによると,子供のADHDのリスクは母親の妊娠中の喫煙の結果増大し,母親の社会経済的位置,母親や父親のIQ,あるいは親のどちらかが子供のころにADHDだったか否かなどとは関連が認められない。
 ADHDを発症した子供の母親は,人よりも妊娠中に禁煙することが難しかったか,あるいは発達する胎児に及ぼすたばこの悪影響についての認識が足りなかったのだろう。

ニコチンが原因物質か

 母親の喫煙とADHDとの関連性は,胎児のニコチンへの曝露によるものかもしれない。 Biederman教授は,妊娠したラットやマウスを使った研究では,ニコチンへの慢性的曝露と子供の多動との間に関連性があることを示している,と述べた。
 ニコチンが,発達過程の決定的な時期に胎児の脳に損傷を与えるのではないかという仮説もある。ニコチンが胎盤の血管を収縮させ,発達中の胎児への血液や酸素の量を減少させるのかもしれない。また,ニコチンがなんらかの生化学的カスケード反応を起こさせ,それによってドーパミンの異常な放出が起こるという可能性も考えられる。
 Biederman教授らによるこの発見は「なんら驚きではない」と,ADHDの研究者である米国立精神保健研究所(NIMH,メリーランド州ベセズダ)のF. Xavier Castellanos博士は述べている。
 Castellanos博士らは昨年 7 月,ADHDの男子では,ADHDではない男子に比べて,命令を開始し実行する特定の脳の構造が小さいことを報告した。
 喫煙が胎児の発達に悪影響を及ぼすことを明らかにした研究は,数十年前から見られるようになり,妊娠中の喫煙は低出生体重児を増加させ,乳児突然死症候群(SIDS)や精神遅滞のリスクを増大させることが認められている。

 

10, 妊婦の受動喫煙と低出生体重に関連 受動喫煙群のリスクは3.4倍 92%でコチニンを検出
メディカルトリビューン 22 Oct 1998
ノルウェー国立公衆衛生研究所およびウレバル大学病院(ともにオスロ)の小児科医と疫学者による研究グループは「妊婦の受動喫煙は出生児の体重に悪影響を及ぼす恐れがある」と『American Journal of Public Health』(88:120-124)に報告した。

受動喫煙群のリスクは3.4倍

 母親の喫煙と低出生体重児出産のリスクとの関連は既に立証されているが,妊娠中の受動喫煙の影響は今のところ不明である。
 同研究グループによると,母親の頭髪のニコチン濃度は低出生体重児出産のリスクを示す適切な指標になるという。同グループは正常出生体重児および低出生体重児の母親を対象に質問調査を行うとともに,頭髪に含まれるニコチンの分析を行った。その結果,母親自身は喫煙しないが妊娠後期に最高レベルの受動喫煙に曝露された妊婦の低出生体重児出産リスクは,曝露されなかった妊婦の3.4倍だった。児の頭髪に関する同様の分析では有意な結果は得られなかった。
 医療社会学者で米疾病管理センター(CDC,ジョージア州アトランタ)生殖保健部門のRobert Merritt氏は「今回の知見は,決定的とは言えないまでもかなり強力に,受動喫煙が生殖保健にもたらすリスクに関する教育の必要性を裏づけている。今回の研究が受動喫煙と低出生体重との相関関係を明示しているとは思わないが,過去の多数の報告を裏づけるものとはなっている」とし,「今回の研究によって明らかになったことは,受動喫煙と低出生体重の間になんらかの関係があるということである。著者らもこの研究の限界を認めている」と述べた。

92%でコチニンを検出

 これに対して,より批判的な専門家もいる。今回の研究では,母親の頭髪中のニコチンと児の頭髪中のニコチンとの相関や,児の頭髪中のニコチンと低出生体重との関連を明示することができなかった。ノースカロライナ大学(ノースカロライナ州チャペルヒル)産婦人科のWatson Bowes教授は「今回の結果を全体的に見ると不可解な点もあるが,興味深い知見ではある。受動喫煙への曝露をモニターする方法の 1 つとして有用である」とコメントした。
 Merritt氏によると,受動喫煙が懸念される理由の 1 つは,一連の試験で,受動喫煙に曝露された人の多くにニコチン副産物のコチニンが検出されていること。同氏は「米国の 5 歳以上の人口のほぼ92%で血中にコチニンが検出されている。コチニンはまた母乳にも検出されている」と述べた。
 さらに,受動喫煙の心疾患や乳幼児突然死症候群への関与も指摘されている。同氏は「受動喫煙は積極的喫煙と同等の大きな問題である」としている。

 

11, コカインの使用および喫煙と自然流産のリスク
N Engl J Med 1999; 340 : 333 – 9
COCAINE AND TOBACCO USE AND THE RISK OF SPONTANEOUS ABORTION Roberta B. Ness, and others

【背景】  喫煙とコカインの使用はおそらく自然流産のリスク因子であろうと考えられるが,このような関連を示したデータは限られている. 【方法】  われわれは,都心地区の救急部門で治療を求めていた妊娠中の少女と女性(年齢範囲,14 ~ 40 歳)において,コカインの使用および喫煙と自然流産との関連性を検討した. 全体では,400 例の少女と女性が,試験への組み入れ時または追跡調査(追跡調査は妊娠 22 週目まで続けた)期間中に自然流産し,570 例の少女と女性が妊娠 22 週目以降も妊娠を継続していた. コカインの使用は,試験開始時に,自己申告と尿および毛髪の分析によって評価した.喫煙は自己申告と尿検査によって評価した.

【結果】  流産群と非流産群の両群の少女と女性は,主に黒人で社会経済的な地位が低かった.自然流産した少女と女性では,毛髪検査に基づいた コカインの使用が 28.9%,尿のコチニン検査に基づいた喫煙が 34.6%であったのに対して,自然流産しなかった少女と女性ではそれぞれ 20.5%および 21.8%であった. 毛髪検体からのコカインの検出は,人口統計学的および薬物使用の変数で補正すると,自然流産の発生の増加と独立的な関連性が認められた (オッズ比,1.4; 95%信頼区間,1.0 ~ 2.1).しかしながら,自己申告および尿検査による評価では,コカインの使用は関連性がなかった. 尿中からのコチニンの検出も,自然流産のリスクの増加と独立に関連していた(オッズ比,1.8; 95%信頼区間,1.3 ~ 2.6). 自然流産のリスクの 24%は,コカインの使用または喫煙に関連づけることができた.

【結論】  コカインの使用と喫煙は,今回の試験母集団においては一般的なことであり,自然流産の有意なリスクと関係があった.

 

12,  喫煙乳癌患者で大きい肺転移リスク
メディカルトリビューン 2001年8月16日 (VOL.34 NO.33) p.02

カリフォルニア大学デービス校医療センター(カリフォルニア州サクラメント)のSusan Murin,John Inciardiの両博士らは, 乳癌女性における肺転移と喫煙の関係を検討し,喫煙者で致死性の乳癌発症率が高いことを示した新しい研究をChest (119:1635-1640)に報告した。

喫煙が乳癌の経過に影響

 Murin博士らは肺転移を認めた片側浸潤性乳癌患者87例と対照群として肺転移のない乳癌患者174例を比較検討した。 対照群は可能な限り,転移群と診断時年齢,診断時期,原発腫瘍の大きさ,陽性リンパ節数を一致させた。
 肺は乳癌から転移する好発部位であること,また喫煙が肺にさまざまな変化をもたらすことから,同博士らは, 喫煙によって乳癌の肺転移の頻度が増加し乳癌の経過に影響を与える可能性があるという仮説を立てた。
 乳癌から他臓器への転移が客観的に確認された患者の数は,対照群に比べ,肺転移群で高かった(31%対72.4%)。 喫煙歴があるのは肺転移群が38%,対照群は29%,乳癌診断時に喫煙していたのは肺転移群が24.1%で, 対照群が15.3%であった。肺転移の喫煙乳癌女性と非転移の喫煙乳癌女性の調整前オッズ比は1.76であった。
 肺転移群でホルモン療法を受けている患者の割合は対照群(42.8%)に比べ肺転移群(23.2%)で有意に低かった。 ホルモン療法やその他の変動因子を考慮すると,肺転移乳癌女性の最終分析オッズ比は1.96であった。

喫煙は肺転移に有利な環境つくる

 Murin博士は「この研究は乳癌女性における喫煙と肺転移の関係を示すもの。乳癌を転移性疾患へと進展 させる喫煙の影響は,喫煙乳癌女性に致死的乳癌の発生率が高いことを示す興味深い説明であり,また, 生物学的にも説得力がある。 肺の傷害は肺転移の発生率を上昇させること,喫煙が肺の傷害の原因となること,喫煙により影響を受けた 炎症性変化は肺疾患の経過を変化させることが事実とすると,喫煙は肺転移に有利な環境をつくっている可能性がある」と述べた。
 同誌の論評で,スタンフォード大学医療センター(カリフォルニア州スタンフォード)のGlen Lillington,David Sachsの両博士は「この研究が別の研究で確認されれば,乳癌診断時に喫煙している女性には,喫煙習慣に 対する効果的な治療を施すことが望ましいことが示される。禁煙を開始しても,逆戻りする確率は禁煙開始から 12か月以内が最も大きいため,禁煙開始から12か月以内の女性は注意してモニターする必要がある」としている。
 両博士は多くの禁煙作用物質は安全で効果的であることに言及したうえで,「乳癌患者を積極的に禁煙させる 治療はおそらく喫煙乳癌患者の標準的治療になるであろう」と述べた。

 

13,  受動喫煙はやはり早産リスク
メディカルトリビューン 2001年9月6日 (VOL.34 NO.36) p.02

ノルディック大学公衆衛生学部(イエーテボリ)のJouni J. K. Jaakkola氏は「受動喫煙は早産を促す」と EnvironHealth Perspect(109:557-561)で注意を呼びかけている。 同氏らは,分娩後の非喫煙女性389人を対象として,毛髪中のニコチン濃度を測定した。同濃度には, 過去 2 か月間の紫煙への曝露が反映されている。 分析の結果,ニコチン濃度が最も高い( 4 μg/g以上)グループでは,妊娠37週を待たずに早産する リスクは 6 倍も上昇していた。 また,同濃度が中程度(0.75~ 4 μg/g)のグループでは,そのリスク上昇は1.3倍だったという。