日本禁煙推進医師歯科医師連盟では、学術発表と会員の情報交換の場として年1回学術総会 を開催しております。皆様のご参加をお待ちしております。日時等は改めてお知らせ致します。




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神経疾患

 

1, A Ott et al(Antwerp, Belgium)  Smoking and risk of dementia and Alzheimer’s disease in a population-based cohort study: the Rotterdam Study. Lancet 1998; 351:1840-43.

アルツハイマー病(ア病)にタバコが予防的に作用する場合があることが知られている。しかし、典型例の患者対照試験によるものでありバイアスがある。そこで、55歳以上の痴呆のない住民6870人の生活歴、apolipoprotein E(APOE)4遺伝子の有無の検査をして追跡調査を行い検討した。 2.1年の追跡で146人の痴呆が発症し、その内105人がア病だった。発症率オッズ(相対危険度)を喫煙したことのない群を1.0として喫煙既往群、喫煙群の順に示す。全痴呆発症についてはAPOE4欠損者群で1.0, 1.9, 3.2 APOE4有群で1.0, 1.0, 1.4, ア病発症についてはAPO4欠損群では1.0, 2.4, 4.6 有り群では1.0, 0.9, 0.6 であった。つまり、APOE4欠損群では喫煙によって全痴呆もア病も増えるのに、APOE4有り群では喫煙しても発症は増えず抑制されたのである。APOE4遺伝子有群でなぜ喫煙の害が抑制されるのか? はじめに、APOE4は心血管疾患のリスクを高め、それを持つ喫煙者では死亡率が特に高いことが知られており、高齢まで生き残るAPOE4+の喫煙者は選び抜かれた特別の人であることを知るべきである。その上でこの結果を考えると、喫煙は一般には害であるがAPOE4+の人には選択的部分的に役立つ効果があるのかもしれない。APOE4+のア病ではニコチンレセプターがより少なく、コリン作動生がより低くなっており病状の悪化に関連している。喫煙はニコチンレセプターを高め、アセチルコリン放出を増やしているのではないか。そのためにア病が抑制されるのだろう。それを示す文献がある。

 

2, タバコを吸うと知能指数のIQは下がる

2000年2月25日の東京新聞に発表された愛知県大府市の国立長寿医療研究センターの調査結果は、はっきりと「タバコを吸うと知能指数のIQは下がる」ということを立証。 1997年から1999年にかけて愛知県の、40歳以上79歳以下の中高年者1824人のIQ調査をした結果、現喫煙者のIQの、平均値は102.5、非喫煙者は106.8、やめた人は107.9と、喫煙者は吸わない人よりもIQが低いことが立証された。
下方浩史疫学研究部部長は「喫煙による酸欠で、一過性の脳障害が起きる。しかし禁煙すれば回復する」と見ています。愛知がんセンターの富永祐民氏は「喫煙により脳萎縮が進行することはすでに確認されているがそれを裏付ける研究だ」と褒めている。

 

3, 毎日の喫煙が大うつ病リスクを増大 メディカルトリビューン 28 Aug 1998
毎日喫煙する人では大うつ病のリスクが増大し,また逆に,大うつ病患者ではたまの喫煙から毎日の喫煙に移行する可能性も高いことが,ケースウエスタンリザーブ大学(オハイオ州クリーブランド)精神科学科および生物統計学科の研究者であるNaomi Breslau博士らによって明らかにされ,『Archives of General Psychiatry』(55:161-166)に報告された。

 Breslau博士は,これは抑うつ状態にある人が,たばこに含まれるニコチンを自己治療のために利用しているとも考えられ,あるいはまた,喫煙傾向と抑うつに陥る傾向に同じ遺伝因子が関係しているとも考えられる,と述べた。
 同博士らは,ミシガン州南部のある大きな健康維持組織(HMO)の登録名簿から若年成人1,000例以上を無作為に選び,5 年間にわたって追跡。研究対象者には毎年面接して,彼らの喫煙習慣および行動と情緒面について質問した。
 その結果,最初は頻繁には喫煙していなかった被験者のうちで,大うつ病を経験した人では,抑うつに陥ることのなかった人に比べて,毎日喫煙するようになる率が 3 倍に達することが分かった。一方,大うつ病の発症率は,たまの喫煙者よりも,頻繁な喫煙者のほうが 2 倍近く高かった。
 他の研究でも,抑うつと違法な薬物の使用との間に,同様の関係が認められているが,抑うつと薬物使用習慣の開始との間の相関を明らかにした研究はない。

 

4, 喫煙者はパニック発作を起こしやすい  メディカルトリビューン[2000年3月23,30日 (VOL.33 NO.12,13) p.1]
たばこを吸うと気持が静まる,と感じている喫煙者が多いが,ヘンリーフォード機構システム(デトロイト)行動サービス部研究担当のNaomi Breslau部長らは,毎日の喫煙とパニック発作との間に関連性が認められることを明らかにし,Archives of General Psychiatry(56:141-147)に発表した。

発作発生率は2~4倍

 この研究によると,喫煙者はパニック発作の発生率が,一度も喫煙したことのない人や禁煙した人に比べて,2 ~ 4 倍に達することがわかった。これは一般人口を対象に,喫煙とパニック発作との間の因果関係を証明した最初の研究である。
 たばこに含まれるニコチンやその他の物質が,抑うつなどの精神医学的障害を引き起こすうえでなんらかの役割を果たしていることは,これまでの研究によって示唆されている。そこでBreslau部長らは,喫煙がパニック発作の原因の一部となっていないかどうかを明らかにしたいと考えた。
 同部長らはこの研究結果について,2 つの説明が考えられるとしている。その 1 つは,喫煙によって肺機能が低下することが影響を及ぼすと考えるもの。「肺が生理学的にパニック発作の引き金を引くことになるのではないか」と同部長は言う。喫煙者は息切れやその他の肺の問題を起こす可能性が高いため,パニック発作を起こすリスクも高くなるという。
 もう 1 つの説明は,ヒトの脳に対するニコチンの影響によるとするものだが,これを裏づける十分な証拠は得られていない。
 パニック発作とは,息切れ,めまい,動悸,ふるえ,発汗,息苦しさ,悪心,非現実感,しびれ,潮紅もしくは悪寒,胸痛,死の恐怖,発狂の恐怖などの症状のうち,4 つ以上が認められる状態と定義される。なかでも息切れ,胸痛,動悸が多い,と同部長は言う。同部長によると,一般集団のうちの 3 ~ 5 %がパニック発作に苦しみ,女性ではこの発生率が男性の 2 倍に達する。
 同部長は「この研究結果は,喫煙が身体的な害を与えるだけでなく,精神の健康にも悪影響を及ぼす可能性があることを明らかにしたものであり,これが喫煙者にさらにもう 1 つ確かな禁煙の理由を与えるものとなることを期待する」と述べた。

 

5, 精神疾患既往の喫煙者には禁煙指導の徹底を メディカルトリビューン 2001年4月26日 (VOL.34 NO.17) p.17

精神科医はカウンセリングで禁煙指導を患者に頻繁に行っていない,とハーバード大学およびマサチューセッツ 総合病院たばこ研究治療センター(ともにマサチューセッツ州ボストン)のAnne N. Thorndike博士らは,Nicotine and Tobacco Research(3:85-91)に発表した。
 筆頭研究者の同博士は「プライマリケア医と精神科医は,精神疾患患者におけるたばこ関連疾患がもたらす 損失を減らす機会をみすみす見逃している」と述べた。 同博士らは米国立保健統計センター(メリーランド州ハイアッツビル)が全国的規模で行った外来診療のデータ 17万件以上を分析。精神疾患既往のある患者の 4 分の 3 に対して喫煙の有無を聞いた。 しかし,禁煙指導カウンセリングを受けたと答えたのは,喫煙していると答えた者の 4 分の 1 にも達しなかった。
 今回の研究によると,禁煙カウンセリングを受ける率は精神疾患のない喫煙者も同じく低いという。 従来の研究では,精神疾患を持たない喫煙者が医師の禁煙カウンセリングを受けていたのは同じく25%であった。 これまで内科医が精神疾患患者の喫煙に対してどの程度の頻度で取り組んでいるかについてはあまり知られていなかった。 以前の研究によると,精神疾患患者には喫煙の習慣がより強く見られ,禁煙の動機付けも困難と言われる。
 精神疾患を持つ喫煙者にとって禁煙は難しいかもしれないが,患者が禁煙できないと医師はきめ付けてはならない。 「喫煙がもたらす健康に対するリスクは甚大なため,内科医はすべての患者の喫煙問題に対処する必要がある」 と同博士は述べた。
 この研究によると,米国精神医学会(APA)の現行ガイドラインでは,医師は,動機付けられ禁煙日を定めた 精神疾患患者に対して,ニコチン置換療法を行うなど禁煙指導を行うことを勧告している。
 同博士らは,少なくとも不安障害を持つ喫煙者では,禁煙カウンセリングをより多く行ったのは精神科医ではなく 主治医であったと報告している。 これについて「専門医で対応が違ったのは,大規模な禁煙キャンペーンがまず主治医を対象としており,精神科医は 後手となったことによるものかもしれない」と同博士は説明した。